にさう言つてくれないんだ?
婆 でもさ、みんなもやつぱり困つてゐるんだもの、さうさう言へたもんぢや無いよ。
より (少年に)坊、おなか、空いてる?
少年 うん。
より うどんでもあげようか?
少年 金が無えんだよ。
より お金はいいのよ。
少年 ぢや、いいよ。
より どうしてさ?
少年 ……食ひたく無えや。(言ひながら、眼は、隅でうどんを食つてゐる留吉の方を睨んでゐる)
婆 そいで、言ひにくいけど、誰か二三円私に貸して呉れんかね? 直ぐに返すけど。一円でもいいよ。(顔を見合せてゐる志水と辰造と金助。三人とも金は無いらしい)……五十銭でもいいよ。
志水 ……今無えんだ。直ぐ後で、俺、なんとかするから――。
辰造 おい留公、おつ母あに少し貸してやれよ。二円でも三円でもいい。貸してくれ。
留吉 (うどんを食ふのを止めて)……? うん。……いつ返してくれるんだよ?
金助 金が取れたら直ぐ返すよ。
留吉 ……そいで、利息は、いくらだ?
辰造 ……畜生! ケダモノ奴! もう止せ、こんな奴に頼むのは止せ! 後で皆でなんとかすらあ。さ、行かう、おつ母あ。此のケダモノ野郎、ペツ! (と留吉の顔へ向つてツバを吐きかける)
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(店の前――舞台奥――を何か話しながらゾロゾロ通つて行く七八人の男達。中の二人が、ノレンから顔だけ出して)
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男一 おい、行かうぜ!
男二 もう大分集つたらしいよ!
辰造 よし! さ、行かう! (老婆を助けて外へ。続いて金助も出て行く。少年はそのまゝ立つて、暫く留吉の方をうらめしさうな眼で睨んでゐたが、やがて外へ)
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(留吉は又うどんを食ひはじめる。黙つてそれを見てゐる志水。――香代が奥から出て来て、二重に腰をかける)
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志水 ……留、……お前、そんなに金が欲しいのか?
留吉 ……? ……うん、欲しい。
志水 それ程までにして金が溜めたいかと言つてるんだ。
留吉 ……ほかに溜めようは無えもの。……できなきや泥棒するより無え。……俺あ泥棒はしたく無え。
志水 どうするんだい、その金を?
留吉 ……。(うどんを食ふ)
志水 まあ、そりや、どうでもいい。どうしてもお前、俺達の仲間に入るのは、いやなのか? 皆の所に一緒に来るわけには行かねえのか? 同じ所で同じ様に働らいてゐりや他人の
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