なえて、となえるだけならば、なんにもしないことにほとんど等《ひと》しいでしょう。それで私は私流に考えぬいて、私のような貧しい弱い臆病な人間にも実行できる具体的な処方箋をつくりあげました。それはこうです。
私は今後、どこの国のだれが私に武器を持たせてくれても、ていねいにことわって、それを地べたに置くでしょう。武器というのはサーベルから原子兵器にいたるすべての人殺しの道具です。外国人がくれても日本人がくれても、地べたに置いて、使いません。
そうすると、ばあいによっては私は処罰されるかもわかりません。それは怖いし、イヤです。なるべくそういうことにならないように相手にたのみます。しかしどうしても処罰されるのだったら、それを受けます。たぶん、即座に殺されるということはないだろうと思います。いずれにしろ怖いが、しかし武器を取って人を殺すほど怖くはないでしょうから。
暴力=軍事力にたいする私の抵抗は、じつはたったこれだけのことです。もちろん、このことからいろいろ派生してくる問題はありますが、それらみな副次的なことで、右の一つのことさえ私が実行できるならば、その他のことは、そのときどきになんとか処理できるだろうと思います。
残る問題は、まえに書いた肉体と感情の弱さのことです。自分の目の前で、なんの罪もない同胞がバタバタ殺されるのを見せられても、最後まで、私は武器を取らないでいられるだろうかという問題です。
これは、目下のところ、いくら考えてもハッキリわかりません。なんとも言えない。もしどこかの国の軍隊が侵略の意図でもって日本の国土をふみにじり、日本人を虐殺しはじめ、そしてその事実が疑いようのない形でわれわれに確認され、私の怒りが完全に私をもえあがらせたばあいは、もしかすると、私はナイフを取ってでも眼前の敵を刺し殺すかもわからないし、またもしかすると、私とおなじ考えをもった人たちとともに、パルチザン部隊をつくって敵と戦うにいたるかもわからない。
もし万一そうなったばあいは、私は悲しみ、あきらめるでしょう。私という人間の成長の程度が、現在のところ残念ながらその程度で、また私と同じような人びとも私と同様まだ不完全で弱いと思い、その不完全と弱さのゆえをもって戦わざるをえない運命を、人間全体のために悲しみ、あきらめます。ほかに仕方がないから、あきらめるのです。そうすれば、その戦う
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