にしか書かないし、枚数もすこしなので、それからの収入はごく僅かです。財産も貯蓄もありません。毎月の生活を原稿料でまかなっていく以外に手段はない。まったく手から口への生活である。
私はたいがい戯曲を一編書きあげるのに三カ月を要しますが、書きだすときに生活費がチャンとあったためしがないので、たいがい他から借金します。毎月いくらかずつ借金して三カ月後に作品を書きあげ、それをどこかに売って金をもらい、それで借金をかえすとたいがい、なんにもなくなるか、ごく僅かが残るだけです。もし作品が売れないばあいは、借金は全部ひっかぶらなければなりません。
今まで、ありがたいことに、だいたい売れてきたが、しかし売れないばあいのことを想像すると、書いているあいだも背筋がさむくなります。ヘタをすると家族全部が飢えなければならないのです。飢えた家族たち、および自分の姿を、机のむこうがわにマザマザと見ながら、青ざめた顔をして戯曲を書いているのです。そういう場で私は仕事をしています。
ところで、そういう私という劇作家は全体なんだろう? そうです、二十年あまり戯曲を書いてきている。あまりすぐれた作品は書いていないが、現在日本の劇作家の中から代表的な十人をえらべばその中の一人になろう。それがこんな状態で仕事をしている。ウラメシイと言うのではない。不当だとも思わぬ。事実を語っているまでです。そして、しかし、この私などはまだ幸運ではないかと思います。とにかく劇作の仕事をつづけられるほどの状態ではあるのですから。
現在の劇作家は、劇作の仕事だけでは、まったく食っていけないのがふつうなのです。それは前記のとおりジャーナル一般が戯曲を疎外しているためもあるが、一方、演劇が経済的になりたっていないためでもあります。
いろいろの種類の演劇が現に存在しているのに、それらが経済的になりたっていないというのは、変な言いかただが、事実だからしかたがない。演劇興行だけの収入で人件費その他全部の費用をまかなって自立している劇団は、今ひとつもないといっても言いすぎではない。ほとんどが映画や放送に依存しているか、または、ひどく変則に赤字をころがして歩きながら芝居をしている状態です。他の人のことをいうと迷惑をかけるから自分を例にひきます。
最近、劇団|民芸《みんげい》が私の作品を二三回上演したが、その全部がヒットで、百パー
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