していないかをうかがいたいと思います。
なぜ私がこのようなことを質問するかといいますと、日本のインテリゲンチャのなかには、学問的にも実際的にも、そのことをハッキリとつかみとる段取りを抜きにして、資本主義というものは悪いものであるという、ホッテントットふうの固定観念を持っている者が多く、その資本主義国が外国、ことに社会主義や共産主義を称している外国にたいしてする対外関係においては、悪いのはいつでも資本主義国であると思いこむ傾向が強いようです。インテリのなかでも、とくに共産主義者や社会主義者にこの傾向ははなはだしい。
朝鮮戦争の例のばあいもそうでした。私は少しでも自分の判断を正確なものにしたいと思って、いろいろの多数の人たちの意見を聞きあつめましたが、その中でもっともいちじるしかったことは、私の知っている多数の共産主義者のことごとくが、一人のこらず判で押したように、しかも即座に、戦争勃発については北鮮には責任なく、アメリカと南鮮が陰謀し挑発したものであると確言したことです。しかも、それについての十分な証拠をあげようとした人は、ほとんどいませんでした。
それは、まるで、共産主義や社会主義を称している国や勢力は、悪をはたらくことは絶対にありえないと、信じているもののように見えました。それほどまでに、共産主義や社会主義を絶対的に、ちょうど金ののべ棒をウノミにしたように呑みこんで信じきり、少しの不自由も不満も感じない状態というものはさしあたり、いかんともすべからざるものであり、軽蔑よりも、羨望を感じさせる種類の状態であります。しかしそれは、真実だとか正義だとか人間平等だとか寛容とか科学とかが打ちたてられなければならぬところでは、役にたたないばかりでなく、有害なものであります。
あなたにききたいのは、あなたもまたそういうインテリゲンチャの一人ではないか? そうではないかとご自分で考えられたことはないだろうかということです。一言にいいますと、アメリカのような資本主義国と、共産主義や社会主義を称している国とが紛争を起したばあいは、あなたにとっては、調査や検討や論議以前に、絶対無条件に、有罪なのは資本主義国ではないのかということです。
私のつぎの質問は、そのこととつながりのあることであります。
私は社会学や経済学について、専門的に高度の学問をしたことはありません。しかし初歩の基礎的なところだけは、いくらか正確に学んでいると自分では思っています。
そのような私の判断がどこまで確かであるか、あまり自信はありませんが、数冊のあなたの著書や多数の雑誌論文などを通読して推測するのに、あなたはだいたいマルクシズムによっていられるらしいと思います。社会現象や経済現象の説明の方法としては、マルクス以外の、また以後の英米の学者の方法などを採用なさっているところはかなりありますが基本的なまた中心的なものはマルクシズムではないでしょうか。いかがでしょう?
これをもっと具体的に、たとえばあなたの論文のなかのこれこれの要素やこれこれの個所は、マルクシズムのこれこれの部分とこれこれのつながりがあるといったふうに書けば良いのですが(――ユックリ書けば、それは私にある程度まで書けると思います)、いま、その時間がありませんので、はぶいて、ただ私にはそうとしか見えないとだけ言っておきます。さらにまた、あなたのいろいろのご意見のなかで、ばあいによって納得がいかないような個所も、あなたのイデオロギイがマルクシズムだと見て読むと、たいがい理解できることが多いのです。あなたは学者だし、自己反省の力の強いかたのようですから、このことはあなた自身知っていられることと思います。
そして、イデオロギイとしてマルクシズムを持っている人は、共産主義者になるか共産党員になるのがふつうだし、自然です。とくにその人が学者であって、ものごとを論理的に科学的に一貫性をもって考える能力を高く持っているばあいには、むしろそうならないのが不自然なことでしょう。あなたはマルクシズムをイデオロギイとして持っていられるらしいのに、共産主義者でも共産党員でもないらしいが、それはなぜでしょうか? それをうかがいたいのです。
もっとも、じつはあなたは共産主義者または共産党員かもしれない。そのことを私だけが知らないのかもしれないし、または、あなたが何かの理由のためそれを隠していられるのかもしれない。秘密共産党員というものもあるらしいし、そういう戦術の必要もわからなくはありませんから、それならそれで結構でして、もしそうなら、このことをこれ以上追究する興味も必要も私にありません。ただ、妙な、おかしい話だとは思います。なぜなら、共産主義者は原則として公然と活動するのが立てまえのように私は承知しているし、現在の日本共産
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