……(もう何をいう元気もなくなり、ボンヤリ位牌を見ていた後、こらえ切れなくなって段々シャクリ上げてお咲と一緒になって声を出して泣き出してしまう)……(間)
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(奥、塀外を四、五人の人が二声ばかり叫声を上げてバタバタと走り過ぎる音。――あとシーンとなる)
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男の子の声 ……ア、ア、ア、父ちゃん(といいながら着のみ着のままで納戸に寝かされていた子供達の中の一人、小さい男の子が、眼こそボンヤリ開けているが眠った顔をして、帯をうしろにダラリと垂れたままヒョコヒョコ出てくる。泣きくずおれているお妙を見ないでフラフラ上りばたの方へ)……あによ、すっだい、馬鹿! (と大きな、調子はずれな声)お役人の馬鹿め! うちの父ちゃん、ぶっ叩くの、やだようっ! ぶっ叩くの、やだようっ!
お妙 (びっくりして振返り、立って、追って、男の子の肩を掴む)まあ、吉坊、また、寝ぼけてどけえ行くの[#「どけえ行くの」は底本では「どこえ行くの」]、これ!
吉坊 (お妙をポカンと見上げるが、まだ眼はさめず)父ちゃんけ? ……うん? おら、芋ば食いてえや。芋ば食わしてけれよ。芋……(
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