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(三人は谷に向い、益々赤く焦げる空に対して、ジーッと無言で真壁の方を見詰めて立つ。事実音が聞こえる程に物凄く赤黒く焦げて行く空。
三人無言で立ったまま非常に永い間。――驚いてけたたましく鳴く遠くの猿の声。夜鳥の叫び。
やがて、前の時とは較べものにならぬ程急調にドウドウドウと山一杯に鳴り出す社の太鼓の音)
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仙太 (その音で目が醒めたようになり)おう、こうしちゃいられねえ! (と箱を抱え込んで)じゃ、お二人さん、まっぴらごめんねえ。
加多 仙太、逃げるか?
仙太 冗談だろう。約束したんだ、とにかく植木まで突走るんだ。ご縁がありゃまた。(右手へ)
加多 五月には来るか?
仙太 先の約束あわからねえ、ま、ごめんねえ。(風のように右手へ消える)
今井 あの者、放してやっていいのですか?
加多 悪いとしてもしようがあるかな? ハハハ、いや五月には来ます。拙者が太鼓判を押す。
今井 (赤い空を見て)ウワッ! 爽快だなあ! 真壁に居合わさなかったのは残念だ!
加多 また、剣舞か? まず御免だ。気を立ててはいかん。さあ、行こう。(懐中から地図を出す)

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