と思う……(しり餅を突いてアブアブやっている)
仙太 (鞘を納めるのをいままで忘れてさげていた刀にヒョイと気づき、ズット刀身を見ていた後、ビューと一振り振って、パチリ鞘に納め、揚幕の方を見込み)さ、筑波の賭場だ。ム。(振返って遠くを望み)山へかかって丁度六つか。おーい、長五郎! 待ってくれーい! 長五! おーい!(と叫びながら、長五の去った左手の道へ小走りに去る)
[#地付き](道具廻る)
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3 十三塚峠近くの台地

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 夜更けの山中の静けさ。
 木立や岩などで取囲まれた台地の奥は深い谷と暗い空に開いている。花道に筑波女体から十三塚峠に達する尾根伝いの山道。正面やや左手に[#「正面やや左手に」は底本では「正面や左手に」]打捨てられた炭焼竈の跡。
 揚幕の奥遠くはるかに筑波神社の刻の太鼓の音ドー・ドー・ドーと遠波のように響く。夜鳥の声。梢を渡る風の音。猿の鳴声。
 間――。
 右手隅に立っている木立の幹や梢に斜め下の方からボーッと丸い明りが差し、次第に強くなる。(峠の方から登って来る人の手に持たれた龕燈《がんどう》の光)ガサガサと人の足音。
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