よし! じゃ、とにかく早く植木に帰って待っていてくだせえ。そうとわかればご遠慮はいらねえ。真壁の仙太郎、ご覧の通りヤクザだが、甚伍左様のためにゃ忘れ切れねえご恩になったことがあります。それもあり、これもある! 自分一人が百姓になっていい気になるなんどのケチな了見はフッツリとやめた。じゃ、お嬢さん大急ぎで村へ帰って、そして落ついて三日と経たず俺が行くのを待っていてくだせえ。さ、早く!
お妙 それでは、仙太郎様、これで……。
仙太 じゃまた、へい(と近くの男の子の頭をなでて)おいみんな、大きくなって、立派な百姓になれよ。あばよ。(お妙等一同、ゾロゾロ花道へ。途中で何度も振返り、小腰をかがめて礼しながら揚幕の中へ消える)
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(花道の袖にジッと立って見送り、考え込む仙太)
(先程、長五郎と仙太に川へ叩き込まれた子分二と三が、ズブ濡れ泥だらけになって顫えながら茶店の裏から上がって来て、その辺をグルグル駆け廻ってわめく、子分二が眼に泥が入って向うが見えないので、切落された柱にぶつかる。そこへ三もまたぶつかる)
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子分二 やい! やい! ウーン、俺を誰だ
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