、お前達知らんか? (田の中からは返事がない。が、誰か一人が身じろぎをしたらしく稲が一個所だけ少し動く)……どうだ知っては居らんか? ……(返事なし)
着流 この辺一帯で、斬られ、斬られ、または斬られの仙太郎と言って子供でも知っているということだから、家だけでも知らんということはあるまい、どうだ? (水田からは返事なし)
袴 あれは……元治元年、筑波党に参加してえらい働きをしたのだから、あれからザッと二十年、もういい年をした爺さんになっていよう、知っておらんか?
洋服 何でも利根あたりの郷士の娘で、一時筑波辺で女郎をやったこともあるとかいう恐ろしいベッピンの女豪傑を女房にしているそうな、俺あ足利で聞いた。願わくばその女郎あがりの女豪傑の美人も見たいもんだ。ハハハ。残んの色香という奴で、一つ叱られて見たいなあ。
袴 阿呆をいうな! 筑波の残党ならば、いわばわれわれの大先達だ。その細君のことを、貴様失敬な! (水田へ向って)どうだ、知っていたら教えてくれんか?
着流 急ぐのだ、早く何とか言え!
袴 教えてくれても決してお前達に迷惑のかかることではない。少しその老人に頼みたいことがあってな。
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