へい……。
段六 ……(群集と仙太を見較べて頭を振り)……仙太公、どうもはあ、しょうあんめ。もうこうなれば手遅れだべよ。あきらめな仙太公。よ、おい仙太公。
仙太 (段六の言葉は耳に入らぬ)お願え申します。
行商人 ……ええと、右之者共、上《かみ》を恐れず、ええと、貢租《こうそ》の件につき……へえ、貢租てえと年貢のことじゃろが……強訴《ごうそ》におよばんといたし相謀り……強訴と言うのは何の事だえ?
百姓一 ごうそかね、はあて? とんかく、あんでもはあ差し越し願えばしようとなさったてえがな。
行商人 ははん、この平七とか徳兵衛とか仙右衛門やらがね?
仙太 (すがりつくように)さようでごぜます。仙右衛門と申すが、おらの兄きでごぜます。兄きと申せば若いようでがんすけど、九人の兄弟で一番上の兄の、おらが末っ子でえすで、もうはあ四十七になります。つい、かわいそうと思われて……。
段六 へい、それも、いよいよ差し越し願えばしたからと申すのではありましねえで、たんだこの飢饉でどうにもこうにもハア上納ば増されたんでは百姓一統死なにゃなんねで、せんめて、新田の竿入れだけでも[#「竿入れだけでも」は底本では
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