たね。仙太さん、いま見ると、今日のお仕置きの手の者は北条の喜平一家の者だ。たしか上林の弥造とか言った角力上りの奴もいるようだが、何ですかい、あの連中、出役《しゅつやく》は今日だけのことかそれとも……?
仙太 いえ、そうではごぜましねえ。兄きなんどが、お召捕になりましたのも喜平親方の方の子分の衆がなされましたんで。
段六 あんでもはあ、喜平さんと当地の御手代様とは奥様の方の縁続きとかで、北条の一家と申せば詰らねえバクチ打ちでも御役人同様、えれえご威勢でごぜえます。百姓一統どれ位え難儀をかけられているかわかりましねえで。
甚伍 フーム。そいつは了見違えな話だ。二足の草鞋を穿くさえある。荒身かすりの渡世とは言いながら、チットばかりアコギが過ぎるようだ。それでなくとも北条の喜平についちゃ、私も前々から同じ無職のゆくたての上で、少しばかりしなきゃならねえ挨拶があるんだ。ま、いいや、おい、お百姓、いや仙太さんとやら、少し先を急ぐ旅だからこれで失礼しますがな、これはホンの志だけ、兄さんに何か甘味い物でも食べさせてやるたし[#「たし」に傍点]にでもして下さいましよ。
仙太 へ? いえ、こんな、一両金な
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