だが、すぐ平常に戻る)
[#ここで字下げ終わり]
甚伍 (少しホッとして)ご両士とも、ご苦労様で。どうでござんす?
士甲 何ともござらぬ。三、四の通行者があっただけです。(乙に)長田さん先程の若い女は?
士乙 大事なかろう。坂の方から一度と原の方に一度見かけたが、此方がその気で見るからこの辺ばかりウロウロしているようにも思えるが、何しろ薩州屋敷が近い。誰かにあいに来たものか、茶屋小屋の掛け取りか、ことに依ればつけ馬かな。ハハ、そういえば、夜目でよくわからんが、まず仲居といった風俗。(兵藤に)先生、もうお済みですか?
兵藤 もう暫く外にいて貰いたい。
甚伍 ええ、私がお引合せをしておいてこんなことを申すのもいかがなものですが、これが今夜かぎりの話ではねえ、明日という日もあります。また、近日皆さんお話合い下さるとして、今夜のところは、これぐらいで……。
兵藤 うむ……。(ジロリと井上を見る。井上はどうしたのか黙って何かに気を取られている様子)
吉村 さよう。……少し気長に話し合えばよいのだ。(士甲に)しかし、とにかく、もう少し外を。
士甲 は。しかし万々心配はありませんが?
吉村 わしはよ
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