た! 山上へ行けというのだ。(男二人のそっ首を掴んで引戻し、門の方へ突きやる。歩哨に)早く! (歩哨心得て、二人を引立てて門をくぐり、こづき廻しながら山上への路へ消える)
隊一 元々あれは、田丸先生の内命を受けて使いに出た者ではないのかなあ? それが吉村や薩賊と往来するなどとは怪しからん。全体田丸先生などいまでも甚伍左を信頼していられるのか?
隊二 さあ、俺はよく知らぬ。……一寸待て。(と右手屯所の方へ去る)
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(遠くで微かに銃声。揚幕の方より仙太郎小走りに出る。身なりは前といくらも変っていないが、素袷すそ取りの胸に黒漆の胴をつけ、草鞋ばきの素足に一個所繃帯し、他にも一二ヵ所血のにじんでいる薄手を負うている。すでに所々に転戦して生き延びて来た男の面魂である。明るいノンキな表情をしている。分捕ってでもきたらしい五六本の大刀――中の二三本は鞘がなくて抜身のまま――を無造作に荒縄で束にくくった奴を肩にかつぎ、自分の刀は腰に閂《かんぬき》に差し、それだけはよいが、どういうものか木綿のしごきで真中をキュッとしばった砥石を、肩から背中の方へ下げている)
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