た、烏が三匹焼け死んで、その子の烏がいうことに、いうことに……(しかし長く尾を引っぱったお咲の泣声は止もうとはせぬ。あぐね果てたお妙はクスンクスンと涙をすすり上げる。しかしそれをこらえて)あんまり泣いていると、お山から天狗が飛んで来て咲ちゃを取るのよ、天狗はこおんな顔をしているのよ、怖い怖い! わしのお嫁になれえっ! ていうのよ。ホホホ、よくって咲ちゃ? (自分で自分をはげまして、せつなげに笑いながら)大きくなったら咲ちゃは、何処へお嫁に行くえ? 天狗さまのところへかえ? おお、いやだ。お百姓のところかえ? 町へかえ? ホホホホ、刀を差した人のところかえ? (そして不意に何を思い出したのか、急に真赤な顔をして、思わず頭髪に片手をやる。……ちょいと泣き止んでいたお咲がまた泣きはじめる。びっくりして歩き出すお妙。無理に笑ったりしたために却って一層悲しくなってしまい、流れ出る涙を袖で拭きながら、何をいう元気もなくなって無言で……間。……三度大砲の音)……え? なあに? ウマウマ、そう、……困ったねえ、ウマウマ? オッパイ? ……お乳が欲しいのね。……いいわ、じゃ(とお咲をソッと背から胸の方へ抱え直して襟を開ける)さあ……(四辺を見廻して)恥ずかしいねえ。いいわ、さ。おお、くすぐったい。(乳房にかぶり付いたお咲、チョッと泣止むが直ぐに乳が出ないのでジレて、それを離してけたたましい泣声をあげる)出ない? そう、困ったねえ。あああ、……ね咲ちゃ、私が頼むから泣かないで、お前が泣くと私も泣きたくなるのだものを。後生だからね、咲ちゃ……(弱り切った彼女の眼に仏壇が見える)それではマンマさんに頼んで見よう。それ(仏壇の前へ行き、沢山立っている位牌の中を捜して一つを前に取出す)それ、これが咲ちゃの母ちゃんだ、お寺様にお頼みもしなかったので戒名もついていない。母ちゃんよ、ようく拝むのよ咲ちゃ、私は一人ボッチでここにいます、ハシカが悪い、食べるものもない、嬢さんのお乳は出ない、母ちゃんが死んでも私のことをどこかで見ておいでならば、早くキイキを治して下さるように嬢様のお乳からオッパイを出して、そして、私に飲ましてくださるように……(自分も位牌を拝む)さあ母ちゃんに頼んだから……(と再び乳房を吸わせるが出ないものは出ないので、再びお咲が火のついたように泣き出す)出ない……どうしようねえ、咲ちゃ
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