妨げすると、その方も縛るぞ!
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(その間に、小者二人、上林の弥造は三人の百姓を突転ばすようにして歩かせる。他の二人は転んだりしながらもフラフラ行くが、仙右衛門は無力になっていて起てないで呻く。そこへ殆ど這うようにして近づいた女房が、ヘギの包みを仙右衛門の懐中にねじ込む)
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女房 仙衛ムどん、先々で食べて下せえよ。これ白え米の飯だよう! 米の飯だぞよう!
弥造 よけいなことをするねえっ! (と女房の腕を青竹で叩き離す。女房ヒーッと叫んで転ぶように土手下へ去る――少しシーンとする)
仙右 (ガタガタする手で懐中を捜ってみて)……こ、米の飯……米の飯でがんすか……こ、米の……(見開いているが見えはしないらしい両眼で遠くを見て嬉しそうにニッコリする)おあ、り、がとうごぜえ……(気味が悪くなったのか弥造がチョイと手を離す)
仙太 兄さん、気をしっかりして下せえよ!
代役 慮外であろう! 起たせろ! 歩きませい! 向後、貴様達、このあたり立廻り相ならぬ。犯すにおいては重きとがめこれあると思いませい。それっ!
刑吏 叩き! (手先達と弥造が青竹を取直す)
仙太 兄さん! 兄さん! お願いでごぜます! お願いで……。
弥造 どけっ! (仙右衛門を叩くために振上げた竹で仙太の顔をガッと撲る。仙太がヒョロヒョロとなるところを刑吏と喜平が散々蹴倒し踏みにじる。はずみを食って仙太土手の傾斜をゴロゴロ転り落ちて来る――舞台前端へ)
仙太 ウーッ! 兄さあんっ!
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(役人、喜平、手先、子分等が罵りながら三人の百姓を突転ばし、青竹で叩きつけながら歩ませて左手奥へ去る。途中、仙右衛門が何と思ったか高札の棒にしがみついて離れようとしないのを、手取り足取り、散々に青竹で叩き離して追い立てて去る。土手の向うからは群集がそろそろ首をもたげて、おびえた顔で見送る)
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段六 (土手を駆け降りて来て)仙太、仙太! 痛えか? ああ、こりゃ、こんな血だ! 仙太よっ!
仙太 (歯をバリバリ音させて)段六、おら、おら、く、く、くやしくっ……! (また思い返して)ウーン、いいや、お願いでごぜます! お願えでごぜます!
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(斜面を這い上り、血を吹き出している顔を草にこすり付けて辞儀をしながら、またいざるようにし
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