へい……。
段六 ……(群集と仙太を見較べて頭を振り)……仙太公、どうもはあ、しょうあんめ。もうこうなれば手遅れだべよ。あきらめな仙太公。よ、おい仙太公。
仙太 (段六の言葉は耳に入らぬ)お願え申します。
行商人 ……ええと、右之者共、上《かみ》を恐れず、ええと、貢租《こうそ》の件につき……へえ、貢租てえと年貢のことじゃろが……強訴《ごうそ》におよばんといたし相謀り……強訴と言うのは何の事だえ?
百姓一 ごうそかね、はあて? とんかく、あんでもはあ差し越し願えばしようとなさったてえがな。
行商人 ははん、この平七とか徳兵衛とか仙右衛門やらがね?
仙太 (すがりつくように)さようでごぜます。仙右衛門と申すが、おらの兄きでごぜます。兄きと申せば若いようでがんすけど、九人の兄弟で一番上の兄の、おらが末っ子でえすで、もうはあ四十七になります。つい、かわいそうと思われて……。
段六 へい、それも、いよいよ差し越し願えばしたからと申すのではありましねえで、たんだこの飢饉でどうにもこうにもハア上納ば増されたんでは百姓一統死なにゃなんねで、せんめて、新田の竿入れだけでも[#「竿入れだけでも」は底本では「芋入れだけでも」]今年は用捨して貰いてえと願い出て見ようでねえかと、村で寄り寄り相談ば打《ぶ》ったでがす。それだけのことでえすて。村は加々見でえす。
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(間)
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行商人 ……ふーん、でもさ、今日はお仕置きだちうのに、今日の連判では役に立つめえて。ええと、ええ兼ねて右之者共人柄よろしからず、ええ、その次の字がわからねえてや……。
仙太 いいえ、あんた様、人柄よろしからずなんど、それは私の兄きにそんなこと言いがかりをつけるのは、それは暴《ぼう》と言うもんでがんす。もう下の段に連れて来られていますによってどうぞご覧下せまし。人柄が悪いなんどと、そんな、あなた様! どうか、お願いでごぜます! 助けてやってくだせまし! へい! この通りでごぜます。決して決して大それたことばいたすのではごぜましねえで。兄きは叩き放し村方お構《かま》いの御仕置《おしおき》でえすけんど、叩きは二百が三百だろうと兄きも覚悟しております。お上《かみ》に御手数かけたからには、それ位のことは当り前で、それのお取止めお願え申そうとは私等思っていましねえで。ただ村方お構いだけを、ど
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