斬られの仙太
三好十郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)爪判《つめばん》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)百姓|御一統《ごいっとう》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#感嘆符疑問符、1−8−78]

 [#…]:返り点
 (例)君不[#レ]見漢家山東二百州

 [#(…)]:訓点送り仮名
 (例)縦[#(ヒ)]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ワラ/\
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1 下妻街道追分土手上

[#ここから2字下げ]
 右手遠くに見える筑波山。土手の向う側(舞台奥)は小貝川の[#「小貝川の」は底本では「小見川の」]河原添いの低地になっていて、その左手寄りに仕置場が設けてあるらしく荒組みの青竹矢来の上部の一部がみられる。街道からその方へダラダラ下りの小道の角に、ギョッとする程大きい高札。
 高札のすぐ傍の路上にペタリと土下座してしきりに額を砂利にすりつけてお辞儀をしている若い百姓真壁の仙太郎。その前の地面にはタトウ紙の上に白い奉書紙と筆硯がのせてある。側に同様土下座をして一緒に辞儀をしたりハラハラしつつ仙太郎の様子を見ている百姓段六。
 高札、と二人を遠巻きにして黙って円陣を作って立っている五六人の百姓。他の通りがかりの行商人、馬方、鳥追の女など。中の二、三人の百姓は仙太郎の方を見ておれないで、うなだれ切っている。オドオドと仕置場の方を振り向いて見下す者、何か言おうとして言えず手足をブルブルふるわせている者。百姓の一人は仙太郎に向ってしゃがんでしまい、あやまるように辞儀をしている。行商人がよく読めぬ高札を読もうとして口の中で唸っている。
[#ここで字下げ終わり]

仙太 お願えでごぜます。皆様、どうぞ、お願えでごぜます。へい、お願えで……(辞儀をしつづける)
段六 皆さん、この俺からもおたの申すで。あんでもねえことで。所とお名前と爪判《つめばん》をいただきせえすれば、そいでこの男の兄きが助かりますので……(一同は顔を見合わせて答えぬ)
仙太 たんだそれだけでごぜます。へい。皆様にご迷惑をおかけするようなことは金輪際、きゅうり[#「きゅうり」に傍点]切ってありませんでええす。
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