んどという大金を頂くこたあ、見ず知らずのあんた様から。
甚伍 なにさ、私も元はといえば百姓だ。いやいまも家にいる時あ、盆ゴザに坐る時よりゃ野良へ出る時の方が多いくらいのもんです。アハハ、いや、また、何かよくよく困って、村にいられなくなりでもした時には、道のついでに私んとこへもたずねておいでなせえ。そうよ、あの筑波を左の肩越しにうしろを見て南の方へドンドン下ってスッカリ山のテッペンが見えなくなった辺まで行ったら、人をつかまえて利根の甚伍左という大道楽もんの家はどっちだと尋ねなせえ。
仙太 え! じゃあんた様が甚伍左の親方様で!
段六 利根川べりの甚伍左様でがんすか! あの名高え!
甚伍 知っていなさるか? こいつは恥ずかしいな。じゃ、ま、急ぐから、ごめんなさいよ。(歩み去り、ジロリと土手下を横目で睨んでおいてスタスタ二人のあとを追って姿を消す)
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(仙太と段六は礼をいうのも忘れてしまって茫然としてその後姿を見送っている――ウロウロしていた女房はもうズット先程から仕置場矢来の方へでも降りて行ったのか姿を見せない。向う側では既に百叩きは終ったらしく、時々人声がザワザワするばかりである)
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仙太 (ヒョイとわれに帰り、ハラハラ涙を流し)ありがとう存じまする! 一生、死んでもこのご恩は忘れましねえでごぜます! ありがとう存じまする!
段六 御支配や、北条の親分みてえな人があるかと思えば、あんなりっぱな仁もあるなあ。……(いいながらタトウの上の奉書を見ていたがビックリして立上って)あっ! こりゃっ!
仙太 あんだよ、段六?
段六 見ろえ、これ! これ! 水戸、天狗組一同としてあらあ! こりゃあ! (ガタガタ顫え出す)
仙太 水戸、天狗組一同! ほだて! するてえと、いまの士の人達、天狗党の人たちだ!
段六 どうしべえ、俺、おっかなくなって来た! どうしべえ、仙太よ?
仙太 どうしべえって……(黙って三人の立去った方を見送り、仕置場の方を見やり、奉書を眺め、顔色を青くして考え込んでいる)
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(間)
(向う側から沢山の人数が土手にのぼってくるらしいざわめき、まっ先に鳥追と馬方と女房が走りのぼって現われる)
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鳥追 むごいねえ、まあ! あの上にまた叩き払いなんだねえ!
馬方 んでも見ちゃいられ
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