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甚伍 兵藤さん、あてこすりを言っちゃいけません。
仙太 いいえ、そんな、そんなこと、それは言いがかりでごぜます。兄貴はふだん村でも田の虫と言われておりまする。タンボ這いずり廻っていさえすりゃ文句のねえ男でごぜます。人柄が悪いなんどと。それは叩かれる分には、仕方ありましねえ、兄きもおらも諦めています。それを、とやかく申すのではごぜませんで。んだが、村方お構い田地お召上げのことでごぜます。あのタンボ気違いの兄きがなめるようにして可愛がっていました田地召上げられましてどの空で生きて行けますべ? それが困れば未進《みしん》上納共地代二十両、持って来いと申されます。いまごろの食うや食わずの水呑《みずのみ》百姓に二十両が二分でも、どうなり申しがしょう! これは死ねと言うことでがんす! 百姓から田地召上げるのあ、死ねということでがんす! 私、お士様《さむらいさま》には武士道と申すもの両刀と申すのがあるということを聞いております。両刀召上げられ武士道がすたれば生きてはおいでにならねえと聞いておりまする! 失礼でごぜまするか知りましねえけど、田を作るは百姓の道で、田地は両刀でごぜまする。この、このところばお憐み下さいまして……。
加多 よし! (ズカズカ向側へ下りて行きかける)
甚伍 加多さん、どうなさるだ?
加多 斬る! 一旗本の分際《ぶんざい》で慮外の処置だ。
兵藤 役人や手先をか? 斬ってどうするのだ!
加多 どうするもない。見ていられい! (走り下りて行きかける)
甚伍 加多さん、まあまあ!
兵藤 加多! 尊公は藤田氏以下諸先輩の至嘱を忘れたのか? まった、こうして三人、京表から先生及び拙藩の藩論を一身に帯してハルバル下ってきた使命をここで打捨てられる積りか? ……どうだ! (言われて加多ウムと言って言句に詰る)ハハハ、若いなあ。しかし無理もない。無理もないがいまそんな時ではないでしょう。どうだ甚伍左。
甚伍 へい。私なんぞによくは解らねえが、やっぱり大の虫小の虫とでも言いますかな。これで盆の上の仕事でも巧者になれば、初手《しょて》はあらかた投げてかかる。
兵藤 アハハハ、甚伍左とくると何の話でも袁彦道《えんげんどう》に[#「袁彦道に」は底本では「袁玄道に」]もってくるからかなわん。さ、行こう加多氏、ハハハ、こんなところここだけではない、これだけでないぞ。黙々として耐えて
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