の三人。二人は士――水戸浪士加多源次郎と長州藩士兵藤治之。他の一人は、一本刀素足草鞋、年配の博徒だが、身なりにも態度にも普通の博徒でなく名字帯刀御免の郷士あがりの者らしい点が一見してわかる甚伍左)
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仙太 お願えでごぜます! お願いいたします。
加多 控えろ! (三人は急用のために行手に気をとられて通行していたところを仙太に不意に飛び出されて、少しギョッとして立止る)……何だ?
兵藤 (土手下の物音で、下を眺めて悟り)ああ。(と見廻して高札に目を止め、読みかけ、他の二人にも指して見せる。三人黙って読み終る)……。
加多 ……さようか。が、お願いとは何事だ? 詰らぬことをいたして通行の邪魔すな。全体お前は何だ。
段六 へい、それにありまする三人の内の一人、百姓仙右衛門の弟仙太郎と申しまする。百叩き御所払いの御仕置につきまして、御所払いだけを御赦免お願いいたそうと存じます。御願書をこうして持参いたしましたが、私どもばかりの名だけではお取上げになりましねえのは解りきっていますので、ご通行の皆様にお名前と爪判を頂戴いたしておりますんで。どうぞ、お慈悲をもちまして……。
兵藤 しかしながら、これに書いてある強訴におよばんとしたと申すは定《じょう》か?
仙太 と、とんでもねえ! へい、当地村方一同、一昨年以来重ね重ねの不作でござります。米、麦を作りまする百姓とは名ばかり、昨年夏ごろよりどっこの家でも食う物に事欠くありさまでごぜます。んだのにお上様よりは追い上納二度も三度も申しつけられまして、そんでなくもウヌが口の乾上るこの際、どうしても未進が続きまする。そこへ持ってきて村方一同が命の綱と頼みまする荒地沼地開墾の新田に竿入れ仰せつけられる段おふれでごぜましたので、そうなればこのあたり百姓何千何万と申す者が、かつえて死なねばならぬ始末、それで私ども兄きなんど、この由御願い出て見ようでねえかと寄り寄り相談していたばっかりでごぜます。
加多 たしか旗本領であったな、このあたりは?
段六 へい。
加多 誰だ? 何と申す?
仙太 二千五百石、加々見様でごぜまする。
加多 フーム。……出役《しゅつやく》は八州および支配所役人か。(唸って高札をにらんでいる)
兵藤 加多氏、何を唸っているのだ。ハハハ、おい、かねて人柄よろしからず云々と申すが、これは何だ、バクチでも打つか
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