に泊った
男が無理にさそったからではない
彼はただ淡々と、しまいまで自分の名も言わず
私の名を聞こうともせず
引きとめようともしなかった
ただ、「行く所がなければ泊んなよ」と言うだけ
そして私はアパートへはもう帰りたくなかった。
そして男といっしょに寝て
なんの喜びも、なんの悲しみもなく
からだを彼に与えた。
彼がそれを要求したのでもなく、私が求めたのでもない
綿のようにくたびれ切った二匹の犬が
からだを寄せて寝たというだけ。
なにかがすこし痛んだだけで、快感は微塵もなかった
男もそうではなかったか
彼は五分の後にはスースーと眠ってしまい
そして翌朝私が目をさまして見ると
残りのコッペパンを一つと、金を六十円、私の枕もとに置いて、居なくなっていた
それきりあの男は私から消えてしまった
あれは、まるで風のような男だった
風は私の頬を吹きすぎて
なにもかも執着しないおだやかな冷たさで
どこかを今でも歩いている……
その次ぎの夜から私は、そのガードの下に立った
男が寄って来る時もあれば来ない時もある
男たちは私を妙な所へつれて行く
焼跡の草むらに導いて
いきなり、ねじたおす男もいる
金をくれる男もあれば、くれない男もある
中には前の男のくれた金をソックリ奪って行く男もあった
すべては私にとってどうでもよかった
頭が完全にしびれたようになっている
山田先生の書斉で話を聞いているうちに
電気がショートでもしたように頭の中を紫色の光が走って
ヒューズが切れて飛んだ!
それ以来、頭の中が、こわれてしまって
なんにも考えられなかった。
おかしなことに、そうして二カ月ばかり
いろんな男たちを相手にしている間に
どの男にもまるで興味は持っていないくせに
ホンのすこしずつだけれど、私のからだが喜こびを知って来たことだ
女のからだというものの下劣さ!
いえ、人間の肉体というもののキタナサ!
しかし、それもどうでもよい事だ
だから、それから間もなく私が
ハダカレヴュの踊り子になったのも、すべてが偶然で
なろうと思ってなったのではない
ガードの下で会った男たちの一人に
アルコール中毒のレヴュの男ダンサアくずれが居て
私のからだをつくづくと見て、ダンサアになることをすすめて
いきなりレヴュ小屋のマネエジァの所へつれて行った。
舞踊の基礎と、発声法は
G劇団にいる頃に本式に習ってある
だけどレヴュ小屋の踊りや唄は、それとは違う
ただ音楽だけはわかるので、ただそれに合せてデタラメに
踊ったり唄ったりしただけ
ところが私のその頃の、何がどうなっても同じ事と言った気持が
唄にも踊りにも投げやりな変った味をつけるのか
舞台に立ったその日から人気が立って
小屋では私をスタアあつかいにする
ダンサアくずれのアルコール男は私のことを天才だと言って
目の色を変えて世話を焼き
手を取るようにして踊りを教える
その教えかたといったら!
どんな舞踊の教科書にも書いてない
どんな教師も教えない――
第一に、人間の前で踊ると思うな
男の下腹部の前で踊れ
いや踊ってはいけない
自分のはだかを、ただ男のペニスをねらって動かせ
それだけが古往今来ダンスというものの本質だ
それに役立つことならばどんな身ぶりでも、どんな動作でもやって見ろ。
そう言って狂ったようになって教えてくれる。
この男こそ、もしかするとホントの天才かもわからないと思ったことがある。
私は踊った
三月の後には、それでけっこう一人前のソロ・ダンサアになっていた
私の暮しは楽になり、母にも金が送れるようになる
レヴュ小屋でもらう給料は僅かだが
いろいろの所からお座敷がかかる
パーテイやキャバレのアトラクションの仕事がある
あちらこちらパトロンが附いて
気が向けば、あのパトロンや、この客と
ホテルに泊り、温泉に遠出する――
間もなくレヴュ小屋のつとめはやめて
ここのクラブのソロ・ダンサアに契約し
きまった仕事はそれだけで、あとは好き勝手に飛び歩く
気が附いた時は私という者は
表はダンサアの、実は高級ピイになっていた
いいえ、それを後悔する気など、こっから先も起きなかった
かくべつの喜びも感じはせぬが
歯を食いしばって、意地になったり
深刻ぶって無理をする気は微塵もない
ただズルズルと何も思わず
ズルズルとドブドロの一番底に沈んで行き
沈んだ自分を、自分でふみにじりたかっただけ。
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(フッと我れに返ってニッコリ笑う)
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とうとう言ってしまいました
あなた方の前で趣味の悪い、
言うまいと思っていたのに、ツイ言ってしまいました。
だけど、ここまで申し上げてしまった上は身もふたもありません
クダクダと手数のかかる話はいたしますまい
そうな
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