ヴュ小屋の踊りや唄は、それとは違う
ただ音楽だけはわかるので、ただそれに合せてデタラメに
踊ったり唄ったりしただけ
ところが私のその頃の、何がどうなっても同じ事と言った気持が
唄にも踊りにも投げやりな変った味をつけるのか
舞台に立ったその日から人気が立って
小屋では私をスタアあつかいにする
ダンサアくずれのアルコール男は私のことを天才だと言って
目の色を変えて世話を焼き
手を取るようにして踊りを教える
その教えかたといったら!
どんな舞踊の教科書にも書いてない
どんな教師も教えない――
第一に、人間の前で踊ると思うな
男の下腹部の前で踊れ
いや踊ってはいけない
自分のはだかを、ただ男のペニスをねらって動かせ
それだけが古往今来ダンスというものの本質だ
それに役立つことならばどんな身ぶりでも、どんな動作でもやって見ろ。
そう言って狂ったようになって教えてくれる。
この男こそ、もしかするとホントの天才かもわからないと思ったことがある。
私は踊った
三月の後には、それでけっこう一人前のソロ・ダンサアになっていた
私の暮しは楽になり、母にも金が送れるようになる
レヴュ小屋でもらう給料は僅かだが
いろいろの所からお座敷がかかる
パーテイやキャバレのアトラクションの仕事がある
あちらこちらパトロンが附いて
気が向けば、あのパトロンや、この客と
ホテルに泊り、温泉に遠出する――
間もなくレヴュ小屋のつとめはやめて
ここのクラブのソロ・ダンサアに契約し
きまった仕事はそれだけで、あとは好き勝手に飛び歩く
気が附いた時は私という者は
表はダンサアの、実は高級ピイになっていた

いいえ、それを後悔する気など、こっから先も起きなかった
かくべつの喜びも感じはせぬが
歯を食いしばって、意地になったり
深刻ぶって無理をする気は微塵もない
ただズルズルと何も思わず
ズルズルとドブドロの一番底に沈んで行き
沈んだ自分を、自分でふみにじりたかっただけ。

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(フッと我れに返ってニッコリ笑う)
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とうとう言ってしまいました
あなた方の前で趣味の悪い、
言うまいと思っていたのに、ツイ言ってしまいました。
だけど、ここまで申し上げてしまった上は身もふたもありません
クダクダと手数のかかる話はいたしますまい
そうな
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