種目ごとに精密検査して包装する仕事が当てられており
私は成績優秀として検査部の組長格の席が与えられ
拡大鏡の下でミクロメエタアつきのゲージに
部品を当てがっては最後の合格不合格をきめて行く役目だった
拡大鏡をのぞいている眼が
過労のために時々かすむ
すると額の眼の上の所が
ギリギリギリと痛んで、吐きたくなる
すると、兵士たちの事を思う
母のことを思う、兄の事を思う
山田先生の言葉が耳の中で鳴る
「われわれが、東洋を確保し、世界を平和に導くためには、今となってはもう、前へ前へと戦い抜く以外に途はない!」
そうだ、途はない!
私の眼は充血したまま、ハッキリする
レンズの中のゲージの鉄がギラリと光る!
夢中で私の手は部品を取り上げる
又取り上げる! 又取り上げる!
ダダダ、ダダ、グヮーンと音がして
ミクロメエタアの目もりがグラリと揺れて
次ぎの瞬間には私ごと、グンと跳ね上り、
近くで爆弾が落ちた事を知った時には、
窓のガラスは全部吹きとび
近くで負傷者が呻いていた。
そういう毎日の中で
私たちは日附けを忘れた
その頃の、ちょうど午の休けい時間に
徹男さんが私を訪ねて来た
そんな事は初めての事なので
変に思って門衛の所へ行くと
あの人はいつもの学生服で
珍らしく明るい微笑で立っていた
二人は構内を塀に添ってユックリと歩く
「何か御用?」と私は言ったが
徹男さんが用事で来たのだとは思っていない
あの人も何も答えず
晴れた空の下をユックリと歩く
そのうち、あの人がポケットから
小さい写真を出して見せた
G劇団の人からでも手に入れたのか
舞台写真から私の姿だけを切り抜いたものだ
「……どうなさるの、そんなもの?」
と私がいうと、フンと言ってそれと私の顔を見くらべてから
写真をポケットにしまいこんだ
それから又しばらく歩いているうちに、不意に私はわかった
「ああ、いよいよ、入隊なさるのね?」
「うん、明日」
そうか、そうだったのか。
明るい明るい、すき通るようなあの人の顔。
そこへ、出しぬけにサイレンが鳴り渡り
警戒警報なしのいきなり空襲
アッと思った時には、空一面が爆音で鳴りはためき
キャーンと――迫る小型機の機銃の弾が砂煙をあげる
広場の果ての防空壕へ
途中で二度ばかり倒れた私を
あの人は抱えるようにしてかばいながら
斜めになって走って行き
防空壕の中に飛びこむと同時に
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