ワに飲ませて自分もゴクゴクと飲む)よ、お豊、お前も飲んでくれさあ!(と酌をする)
お豊 私あよござんすよ
喜助 よござんさねえよ、こんで、もともとの起りと言うは、お前だかんな、
お豊 へえ、どうして、さ?
喜助 しらっぱくれるのはやめにしろい。そうだねえか、先ず第一番にこの俺がお前におっ惚れてよ、あんだけ笹屋に通いづめて言うこときけ言うこときけで、いくらそ言っても聞かねえで、四十八センチぐれえの肱鉄砲くらわしときながらよ、そのお前が、どこが好いだかこの金吾に惚れちゃって、さていくら通って来ても、様子がいまだにモノにならねえくせえや。これ又片想いで、そこら中べた一面にイソのアワビだらけで、なんてまんがいいんでしょとくらあ、へっ! さ、もっと飲め、金吾!(金吾の茶わんに酒をつぐ)
お豊 まあ、ふふ!(と、喜助の怪弁に思わず笑う。金吾も失笑)
喜助 つまり、そのモツレだなあ、元はと言いば――と思っているのが、そこが畜生のあさましさだ。お前は大きに、この金吾に惚れている気でいるなれど、ホントはこの俺に惚れてんだぞ。人間自分の事あ自分にゃわからねえもんだ。かわいや、なんにも知らねえわやい、と言う
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