I
お豊 へえ、男なんて、おかしな事に血道をあげるもんだなし。
喜助 男だあ無え、喜助さまだ、血道をあげてるのは。俺あそったら人間だ。得心も行かねえで投げっ飛ばされっぱなしては、気色が悪くって、この喜助は人中に出られねえんだ。よ、金吾、この土間でやるか、それとも外に出るか?
金吾 こらえてくれろ喜助さん。わびろとあらばわびるからよ。
喜助 くそ、わびてなんぞほしかねえや! おのしも男だらず? だら、来いよ!
お豊 馬鹿だねえ、そんな――よしてちょうだいよう!
喜助 馬鹿は先刻承知だい! さ、来う!
金吾 こらえてくれ、あん時あ、壮六もお前も俺も酔っていただから――
喜助 ようし、だら、この酒え先きに飲んじまって酔った上でやるべし。さ! おい、お豊、その茶わん、取ってくれ。
お豊 (カチャリと音させて茶わんを出してやりながら)ホントに、そんな阿呆なことやめにして、気持よく飲んだらええ。(一升徳利のセンをスポンと抜いて、ゴボゴボと注ぐ)
喜助 おっと! そっちにも酌してくれ
金吾 弱ったなあ
喜助 弱ったと言うアイサツはあるめえ。グッと飲めい! さあ飲めい! ほらよ!(相手に無理につづけざ
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