「やいや、ちがうんだ。俺あ、そういう事を言ってんじゃねえ。そうじゃ無え。ただ俺あ、お豊さん好きだからよ。いや、そ、いやさ(と、ツイ好きという言葉を使ってしまって、うろたえる)好きと言ったって、俺あ、ただこの――へえ、女房なんて、俺ア駄目だあ。
お豊 でも、壮六さんは、あんなふうにあんたのこと心配して――
金吾 壮六はなんと言ったか知らんけど、あやつは一人がってんの野郎でなし、俺にゃ女房もつ気は無えです。そったら身分で無えもの。
お豊 身分? 身分たあ、なんの事なの?
金吾 (ますますあわてて)いや、その――こんな所に、こんな風に暮していて、女房だなんて、お前――へえ、駄目だ俺あ。(と既に言っている言葉が意味をなしていない)
お豊 ……(ちょっと黙っていてからポツンと)その黒田の春子さんのこと?
金吾 うっ?
お豊 春子さんのことがあるから?
金吾 そ、そんな、困るよ。そんな事あ無えです! 大体そんなお前――そんな事言ってもらっちゃ、俺あ、まあいいけんど、春子さまに御迷惑をかけることになっちゃ――もう御主人もちゃんといらしゃるだから。
お豊 その御主人と仲よく、花の都のパリで、それこそ派
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