ナ歩き出したわ。
勝介 うん。もうよしてくれりゃ、いいにな。しかし良いお嬢さんだ。きれいだし、春なぞより、かしこそうだし。
春子 そうよ、私よりズーッと、おつむが良いの。
勝介 結婚はまだなさらない――?
春子 いえ、もうお相手はきまっているの。来年早早お式ですって。
勝介 すると今度春が戻って来れば、若奥さん同志が出合うわけか。まあまあ、ここで別れるのがお互いの娘時代に別れるわけか。泣けてくるのも無理はない。
春子 お父さまは、直ぐにそうやって人をからかう!
勝介 ははは、だが、敦子さんと言えば、あのイトコの、香川君――と言ったね、去年の夏、信州に一緒に来た――あれは、その後フッツり見えないが、どうしたろう?
春子 香川さんは、……去年の暮れに、ブラジルにお渡りになったんですって。
勝介 ブラジルとね。そう言えば、そんなことも言っていたようだったな。いや、それもいいだろう。若い者はそれぞれに思い切ってやって見ることだ。
春子 (クスクス笑って)信州の La《ら》 grande《ぐらんど》 main《まん》 お元気かしら?
勝介 グランド・マン? なんだ?
春子 大きな手。
勝介 ああ
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