は?
金吾 そんな……(ゴトゴト言うが、くぐもって聞えぬ)
香川 いや、そこから出て来てくれるなよ。今、君から見られたら、死にたくなっちまう僕は。ね、滑稽だろう、こういう男、金吾君?
金吾 香川さん、そんなこと……(ゴトゴト言う。ドシンと鈍く石で床を叩く)
香川 僕あ、ホントにブラジルへ行くよ! 望みを失える男、海を渡る! いいだろ? ねえ、金吾君?
金吾 そんな……(ドシン、ドシンと石の音)
香川 (それに合せて、支離めつれつな調子で歌「五丈原」)

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祁山《きざん》悲秋の風ふけて
陣雲くらし五丈原
零露《れいろ》の文《あや》はしげくして
草枯れ 馬は肥ゆれども……
(「零露の文は」の所からオフになって)
[#ここで字下げ終わり]

敦子 (中年)その時の賢一さんの胸はさぞつらかったろうと思います。しかし、その時、私と春子さんの話をその賢一さんといっしょに聞かなければならなかった金吾さん、そしてそういう事はオクビにも出せなかった金吾さんが、黙って一人で暗い炭焼ガマの中で石を叩いていた気持を思いますと、私は何と言ってよいか胸がつぶれるような気がするのです。

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