敦子 春子さんや春子さんのお父様とはじめてナニした馬車の中でよ。春子さんと何度か議論してもハッキリしないの。なぜそんなに泣いたんですの、あんた?
金吾 はあ。そんな、わしは――
敦子 ワアワア声をあげて泣いたってえじゃないの。いえ、それを馬鹿にしたり軽蔑する意味で春子さんも私も言ってんじゃないのよ。ただ、なぜだろうと思ってね。仔馬が可哀そうだったから?
金吾 どうも、そんな――
敦子 春子さんが泣いたから、そいで貰い泣き?
金吾 どうも――
敦子 そういう時の春子さん、綺麗でしょ? だから? 春子さんが、あんまり綺麗だったから?
金吾 そんな……もう、あの、ごかんべんなして。
敦子 ホホ、ホホ。いいわ金吾さん! フフ!
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下の方から風に乗って三人の歌声が近づいて来る。「さすらいの歌」(行こか戻ろかオロラのしたをロシヤは北国はて知らず、西は夕焼、東は夜明け鐘が鳴ります中空に。)
(敏行と香川の歌声は、何か少しイライラしたようなやけくそ気味で。春子は感傷的に)
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敦子 あら、あんな歌うたってるわ。いい気なもんね! (トットットッと走りく
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