だけんど、皆さんの足じゃ、どうでやしょうか!
敏行 なあに、たかが一里たらずだろう、平気さあ。ああやって赤岳なんぞ鼻の先に見えてるんだもの。
金吾 いやあ、あんなふうに見えちゃいますが、登るのはグルグルと右手へ廻りこんでやして、第一、ちゃんと仕度しておいでんならねえと、あぶのうがす。
春子 敏行さんは偉らそうな事言ったって、たより無いのよ。おとついだって、この先きのちっちゃな沢を登るんだって方角がわからなくなって、しまいにベソかくんですもの。心細いったら!
敏行 バカあ、ベソかいたのは春さんじゃないか!
敦子 (金吾に)ホントに、お願いしますわ。途中まででもいいから登ってみたいの。
金吾 んでも、俺あ今日中にここを掻いとかんと困るで。
春子 だってそりゃ又明日だって出来るんじゃない金吾さん、お願い。ね!
金吾 そうでやすか。んでも、こんなナリだし……
春子 いいじゃないの。このワラジはけば、そら。さ足を洗って。(と、しゃがんで、金吾の足に手で水をかける音)
金吾 どうも。(恐縮して)いえ、いいんでやす。(しかたなくガバガバと手足を洗って上にあがる)
敦子 はい、わらじ。
金吾 へい、こ
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