言っていたから今にここを通るだろう。じゃ私はチョット急ぐからね、ハハ、行きはよいよい帰りが怖いと言う奴でな、海の口まで行きは下り一方だからよいが、帰りはあの登りだからね、私の足だとマゴマゴしていると夜になってしまうからね。ハハ、じゃ。(歩き出す)
金吾 行ってござらして。
勝介 (遠ざかりつつ)こっちだったね?
金吾 はあい、そっちでやあす。

[#ここから3字下げ]
しばらく立って見送ってから、再び泥田をかきまわしはじめる音。山鳩の声……

そこへ林の奥から、四人の若い男女が歩きながら声を合せて歌う「札幌農大寮歌」グイグイ近づいてくる。足音、笑声、春子、敦子、敏行、香川の四人。
[#ここで字下げ終わり]

(歌)  都ぞ弥生の雲紫に
     花の香漂う宴の莚
     尽きせぬ奢に濃き紅や
     その春 暮れては移ろう色の

[#地から1字上げ](立ちどまる)

春子 (他の三人に)ほらね、チャンとここに居たでしょ?(金吾に)金吾さん、あのね――
金吾 (水の音をさせながら、頭を下げて)今日は、いいあんべえでやす。
春子 そう、いいあんべえ、ね。(クスクス笑いながら)あのね金吾
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