セ郎君の家を辞し、お別れにもう一度と思って、金太郎君とジョンといっしょにお墓参りに寄った時のことです。その足で私は野辺山の駅へ出て汽車で帰って来たのですが……
金太郎君の話では金吾老人がその時「なあに四、五年もたてば、こんな石ころなんず草の下に埋まってしまって誰も気がつかなくならあ」と言ったそうですが、そうです、この私にしても一度東京へ帰れば、もう再びこの二つの墓に参る折もないだろうと思いながら、別にかけてあげる水も無いままに、その墓石にソッとさわってみました。秋の陽を浴びた石は、いくらかぬくもりを保ちながら、しかし底の方から冷々とつめたい。どういう美しい人であったのか、その春子という人を私は遂に見ないわけです……。金吾老人は終戦の次ぎの年の秋ごろ二三日風邪をひいて寝ているうちに、誰も気が附かぬうちに亡くなっていたそうです。安らかな、すこし微笑んでいるような死顔だったそうで……ほとんど一生を唯一人の人に想い入って、その他のことを思うことのできなかった男、そういう事に男の一生をかける事が、幸福であるか不幸であるかさえも考える余裕もなく、その生涯を泣き暮し、しかもその晩年に於ては始終明るく
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