sさん、どうしやした?
敏行 おう、う……(手離しで、オイオイと、ただ泣く)
金吾 ……どうしたんでやすか?
敏行 ……(やっと泣きやんで)金吾君、君の勝だ、いかになんでも、わしももうここまで落ちてはなあ。昔から君という男を、あれだけ馬鹿にしきって、ふみつけにしてやってきたこの俺《わし》という人間――この人間の正体がこれだよ。そういう君から、こんなさ中[#「さ中」に傍点]に握り飯を貰って、ガツガツと食っている。笑ってくれ金吾君。春子のことにしたって、春子はむかし、わしの妻で、そいで子までなした仲だが、そして一方君は、それをながめて指をくわえて口惜しいおもいをして来たろうが、今にして思うと、春子という女は君のものだったんだよ。形の上では、わしの女房だったかも知れんが、ホントのわしの妻だったことは、一日だって一刻だってなかった。わしあ、あんなことで、あれ達を捨てて、ほかに二人も三人ものへんな女を渡り歩いて、挙句、上海へもちょっと渡ったが、仕事はうまくいかん、帰って来てみると、行く所もなくなってるし、その中に空襲だ、横浜で焼け出されてな、ウロウロしている中に、ヒョイと、敏子に赤ン坊が生まれた
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