ス。したら、次の年の春になって見ると、向うはあの調子だが、こっちの分はしっかりした新芽がギッチリ出やした。やれやれと思ってね、黒田先生の研究と言いやすか、学問の力はえれえもんだと、そう思いやした。俺あ、なんにも理屈はわからねえ、ただ馬鹿の一つおぼえで、そん通りにやっただけでさ。
春子 ほんとにねえ。……今となっては、お父さんの残して行って下すったものの中で、この三枚の苗畑が一番しっかりしたと言うか……しっかりしたものだという気がするの。私なんぞ、お父さんの一人娘でいながら、フラフラと、いつまでたってもたより無い弱虫で、しょうがない! そうなの。イクジなし! 現に久しぶりにこゝに来ても、病気でもないのに、五日も六日も眠ってばかりいて、それが目的の此の畑を見に来るのが、今日まで延びちまったんですから。
金吾 そらあ、だけんど、向うでのお疲れやなんぞ、この、お疲れが一度に出たんでやしょう。
春子 そうかしら。とにかく、もう、溶けるように眠いのよ。もっとも、小屋はあの通り静かだし、敏子はこゝの所おとなしいし、それに夜になると金吾さんが、泊りに来て下さるから、安心するのね。当分私、東京へは帰らな
前へ 次へ
全309ページ中113ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング