@畜生っ!
お豊 金吾さんっ! 金吾さんっ! もうやめてっ! もうかんにんしてあげてっ! 金吾さんっ!
金吾 野郎っ、この!
喜助 うう! ふう! うう!(のびてしまったらしい)
おしん もう、こらえてっ! 金吾さんっ! 誰か来てえっ! 誰か来てくだせえっ!
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あとは金吾が一人であばれる音。ドシン、ベリベリベリッ、ドサン、ガチャンと、まるでイノシシがあばれるような物音。……
それが、壮六のために喜助にたいして怒りを発したためと言う度を越してしまうほど続く。……
やりどの無い胸中の熱のままに獣があばれるのである。
音楽
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[#3字下げ]第6回[#「第6回」は中見出し]
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金吾
お豊
喜助
壮六
音楽
信州のテーマ音楽(冬の)
火じろにたき木のはぜる音。
火じろのわきで藁でナワをなっている音がシャリシャリ、シャリとつづく。
戸外にヒューと吹雪いている響。
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お豊 ……(ペシペシとタキギを折りくべながら)また吹雪が来るようだなし。
金吾 うむ。……(ナワをなう)
お豊 金吾さんはこんな一軒家で一人きりで暮して、よくまあ寂しくないわねえ? 私あ、来るたんびにそう思う。夜なんぞおっかねえ事あ無えかなあ?
金吾 馴れてやすからね。
お豊 いくら馴れてはいてもさ、こんな山奥だもの、変なもんが出て来たりしやしめえかという気はなさらねえの?
金吾 変なもん! バケモンかなし?
お豊 バケモンちうわけじゃねえけど、みんな言いますがな、アミダガダケの天狗さんにさらわれるの、モモンガアが出るのって。
金吾 ふふ、天狗さんやモモンガアにゃまだ逢わねえが、タヌキはちょくちょく来るなあ。二三日前も朝になって見たら、裏口んとこの雪の上一杯に足跡が附いていたっけ。梅鉢みてえな足跡でね。
お豊 へえ、タヌキ、ねえ。
金吾 今に一匹つかまえてお豊さんにタヌキ汁ごちそうするかな。
お豊 だましに来るとですかねえ?
金吾 だましに? 誰をな?
お豊 あんたをさ。
金吾 はは、俺なんずをだましたって、なんにならず?
お豊 そいでもタヌキやキツネは人をばかすとでしょ?
金吾 さあ、どうかな。タヌキやキツネよりや人間の方がよけいに人をばかすんじゃねえかなあ。借金の言いわけだとか、道楽の言いのがれにキツネにばかされたふりをする人間がいっぺえ居るようだからなし。はは、キツネの方じゃ濡れぎぬ着せられて、大きにクシャミこいてるかもしれんて。現に、ここの裏口にやって来るタヌキなんずも、今年みてえな珍らしい雪降りで、根雪になると山奥にゃエサが無くなるんで、食いものさがしにここらへんまでノコノコ出てくるだけだ。
お豊 やれやれ安心した。
金吾 うん、なにが?
お豊 いえさ、私なんずも大きに、こうやってチョイチョイここに来るのが、キツネが金吾さんだましに来てるように思われてんじゃないかと思っていたからさ。ふふ!
金吾 じょ、冗談言っちゃいけねえ、お豊さん。こうやって御馳走さげたりして来てくれちゃ、洗たくしたり、ほころび縫ったりしてくれるお前を、そんな――ありがてえと思ってるんだ俺あ。
お豊 (苦笑して)ふ! でも、考えて見るとかわいそうだわね。
金吾 うん?
お豊 いえさ、そのタヌキがさ。おなかすいてたまらなくなったのに里に出るのを、人をだましに来たかとイヤがられる。タヌキに生れついたのが運が悪るかった。
金吾 そりゃ、言ってみりゃ、そんなもんだが――
お豊 は、は!(沈みこんで行きそうな自分の気を引き立てるように、明るく笑って)私なんずも、いつまでも笹屋に出ていると、キツネだなんて言われるからさ。こんな歌、金吾さん知ってる?(いきなり、投げやりな調子で歌い出す「チンタオ節」)海尻よいとこと誰が言うた、うしろはハゲ山、前は川、尾のないキツネが出るそうな、僕も二三度だまされたあ、ナッチョラン! はは、へえだ。誰があんた、両親そろって、しあわせに育った人間が飲屋の女なんかになるもんですか。家は貧乏身よりはチリヂリ、あっちもこっちもナッチョランかっ、尾の無いキツネにもなりますがな!
金吾 ……(なにか胸をつかれて返事が出来ず、シャリシャリと繩をなうだけ。戸外に吹雪の音)……
お豊 ……でも、こんな私みたいな女ごが、こうやってしげしげと押しかけてやって来たりするの、金吾さん迷惑でしょうね?
金吾 と、とんでもねえ――俺あ、どんだけ助かっているかしれねえんだ。ただ俺の方じゃ、なんのお礼も出来ねえんで、すまんと思ってね。
お豊 (苦笑して)お礼がほしくって来ているんじゃありませんさ。ただね、私がこうやって来ていると、世間じゃ直ぐに、今の尾のないキツネと言うやつでね、笹屋のお豊がば
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