纐の山まで連れて行く間、別に何ともなかったが、林の中で寝せて、そいから、焼夷弾だとかなんかが落ちるの何のと言って――春さん恐がって俺の手にかじりつくからな、俺あ、いよいよ燃えてきたら、また引っ抱えて逃げべえと思って、飛行機の方ばっか見ていたら、その中に俺の手を握ってる手がヒョッとゆるんだので覗きこんでみたら、もう、へえ、いけなかった。……そいで俺あ、それば抱えて、一度警察に頼んどいてな、そいから横浜へ赤ン坊をおぶって飛んでって、敏子さまや敦子さまに知らせて、赤ン坊は敏子さまに渡してな、そんで敏子さんとまた引返して、形ばっかりのお葬をして、お骨は俺がこうやって貰って帰ってきた……お豊さん、いろいろ、この人のことについちゃ、ご心配をかけやした。
お豊 金吾さん、そんな――(声がふるえている)
お仙 お母ちゃん、どうしてそんなにふるえるの?
お豊 何をおらがふるえてるだ、ふん、この子は何を言うだか、ふん、へ……(笑いかけるが、その笑いがだんだん泣き声になって、しまいにオイオイ、オイオイと手離しで、大声をあげて泣き出す)
お仙 お母ちゃん――(これもまた泣き出す)
金太 なんだい、お母ちゃん!(これも泣き出す。あとの二人の子も茶碗を放り出して、オイオイ、オイオイ、泣き出す。まるで家中が泣声の合唱で一ぱいになる)
金吾 お豊さん、金太郎、お仙ちゃん、そんな……
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その五人の泣声のうちに――
音楽
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[#3字下げ]第19[#「19」は縦中横]回[#「第19回」は中見出し]
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敦子
金吾
敏子
杉夫
金太
一郎(幼児)
作者
音楽1
音楽2 その尻にダブって「信州のテーマの冬」の音楽。音楽やんで、林を過ぎる風の音。
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敦子 ……(ため息をつくように、しかし既に老年に近い枯れた人柄になっていて、言葉の調子は明るい)やれやれ。やっとまあ戦争もすんで、こうしてみんなでそろって野辺山の春さんのお墓のところにたどりついたわけねえ。やれやれ! 金吾さん、ほんとに、いろんな事がありましたね。
金吾 (これも、今はもう落ちつき、寂しい句調ながら暗くはない)そうでやす敦子さま、ハハ。すこし掛けやしたら? お足がそれではつろうがしょう?
敦子 いえ、こっちの腰の筋がどうにかなったそうでね。右の足より一寸ばかり短かくなったので、びっこを引くけど、もう痛くもなんともないの。敏ちゃんこそ、一郎を負ぶい通しじゃ大変だろう。いっとき、おろしなさいよ。
敏子 いえ、いいんですの。
一郎 (幼児。この子は最後まで時々幼児の言葉で何か言う)お母あちゃん。あんよ、あんよ!
金吾 いやあ、あの時、空襲の中を俺がリュックに入れてかけだした坊やが、こんなに大きくなるもんでがすねえ。
敏子 金吾おじさんには、お母さんと言い、この子はこの子で、命を助けてもらった。あたしはホントに何と言えばいいでしょう?
敦子 まったくね、何と言えばいいだろう? こうやって春さんのお墓の前で敏ちゃんと一郎と金吾さんと私と、それに金太郎ちゃんに杉夫……さてね、お互いに今さら何と言っていいだろうねえ?
金吾 はは、そうでやすよ。そいでも、敏子さんと坊やがこうして元気でいて、杉夫さんが無事に復員して来なすったのは、何よりでがした。
敦子 いえね、戦争がすんで直ぐ、こちらへお墓参りにと思っていたけど、何やかやと、ゴタゴタしていてね、そこへ四五日前に杉夫が戻って来て、いえ、まだ外地に渡っていなかったので早かった。そいで何はともあれ、あなたにもお目にかかりたいし、春さんにも逢いにこようと言うので、やっとこうして来たの。だけど、金吾さん、良い場所にキレイなお墓をたてて下すったわ。
金吾 いや、あれこれ考えやしたが、ちょうど焼け残りの石で昔黒田先生が別荘の暖炉を築くために選びなすった石がありやしたからね、海の口の石屋に頼んで刻んでもらって、俺がおぶって来やした。ハハ。
敏子 小父さんが、おぶって――?(涙声になっている)
敦子 ……だけど、誰だか知らないけど、別荘もキレイに焼いたものね? 誰が火をつけたのか、わからずじまいですって?
金吾 開墾の事やなんかで村の者たちから私あ憎まれていたしな。それに近ごろのこの辺にも妙な流れもんが入りこんで来て空家に入って火をもしたりしやすからね、村の者がしたとも限らねえ。今さら、そんなことをセンサクしてもしようがねえから捨てて置きやす。
敦子 そうよ、それでいいかもしれない。春さんのお父さんがお建てんなって、それから春さんが一生の間、やって来ちゃ、泣いたり笑ったり……金吾さん、あんたもここに来ちゃあ、いろんなことがあったわね? それがこうして焼けてしまって、残って
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