ネどの叫び声と、ダダダダダと走る足音だけ)
春子 金吾さん! 金吾さん!(二、三間先に駈けぬけながら)
金吾 春さん! 春さん! あんまり先へ行くでねえ! 俺から離れるでねえ! それを右へ行くだ、その階段を上って、そうだ。
春子 金吾さん、一郎に気をつけて!

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言ってる間にも、投下される爆弾の地ひびきと、それの間を縫って落ちてくる焼夷弾のカラカラカラカラという音。それに向って発射される高射砲のとどろきなどが、殆ど耳を聾せんばかりに鳴りはためく。
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金吾 春さーん! 右へ上るだ!
春子 (ずっと先の方で)金吾さーん!

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ダダーン、ガラガラガラ、ズシン、   ダダーンとすべての物音を叩きつぶすように爆音が鳴りはためく。それが暫く続いて……

だしぬけに、すべての物音が消えて、シーンと静かになる。
やがて、遠くの方で、誰か、かすかに「うー、うー」と何かを呼んでいる……

海尻駅の大時計の秒刻。コツ、コツ、コツ、コツ……、駅の事務所の中の駅員の声。「はあ、海尻駅でやすよ。はあ、海尻でやす」
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金太 (誰も居ないベンチにかけて、低い声で歌をうたっている)勝って来るぞと、勇ましく、誓って国を出たからは……
お仙 ……(道の方から下駄の音をさせながら、待合へ入って来て)金太よ、まだ待っていたかよ?
金太 ああ姉ちゃん、どうしたんだ?
お仙 どうもしねえ、お前を迎えに来たんだねえか。みんなもう夕|飯《めし》を食うんだから帰るべ。そうやってお前は、東京から帰って来てからこっち五日も六日も、毎日昼すぎになると駅さ来て、おじさん帰るのを待ってるが、帰る時が来れば、おじさん、ちゃんと家に寄ると言うんだから――
金太 そんでも汽車が、もうひとつ、すぐ着くだから、それを見て帰らあ。お姉ちゃん、先に帰れ。
お仙 おめえってば、すぐそったらこと言う。汁が冷えっちまうてば。(言ってるところへ改札係の駅員が来、ガチヤン、ガチヤンと改札口をあける、と同時に下りの列車が近づいてくるひびき)
金太 そら見い、汽車が来た。
お仙 あら、そうだ。(汽車がひびきを立てて、プラットフォームに入って来て止り、四五人の乗客が降り、みな黙々として改札口を出て行く足音など)
金太 お父ちゃん、乗ってねえかなあ?
お仙 そら見ろ、今日はもう駄目だ。
金太 あ! お父ちゃんだ! お父ちゃん戻って来た!
お仙 ああ!(その二人のいる所へ向って、ションボリと砂利を踏んで近づいてくる金吾の足音)
お仙 お帰りなんし、金吾おじさん!
金吾 (低く)うむ……
金太 お父ちゃん、どうしただよ? 春子おばさん、見つかったのか?
金吾 う、うむ……(三人が家の方へ向かって駅を出て歩き出している)
お仙 どうしたの、おじさん、その首にかけてる白い箱、それなあに?
金吾 うむ……
金太 春子おばさん、見つか――(ハッと気が付いたらしく)え?お父ちゃん、これ、これが春子おばさんかい?
お仙 え? 春子おばさん、死んだのかい?
金吾 …………(無言でスタ、スタ、スタ、スタと歩く。金太郎もお仙も黙りこんでしまって、コトコトコトとつづいて歩く――間。かすかな音楽を流してもよかろう)

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三人の足音が、お豊の家の門口に近づいて――
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お豊 (家の中から)さあさあ、みんな飯だ、飯だ。お仙や金太はおせえなあ。さあさ――ああ、帰って来た、帰って来た。どうした――おや、金吾さんも帰って来た!
お仙 あのなあ、お母ちゃん――(いきなり手離しでオイオイ、オイオイ泣き出す)
金太 春子おばさんはな――(これも姉の泣声につられて、オイオイ泣き出す)
お豊 するつうと――(ト胸[#「ト胸」に傍点]をつかれて口を開けて立つ)
金吾 お豊さん、いま帰りやした。これが春さんの……(首からさげた木箱をゴトリと上りくちに置く)
お豊 (ふるえる声で)まあ、上りなんして――(ゴト、ゴトと金吾が上にあがって、囲炉裏端に坐る)
お豊 お仙、金吾おじさんにお茶出すだ。
お仙 あい。(涙声)
お豊 金太も上れ。そいから安三、お千代なんずは、そらそら、飯ば食え。(それらの小さい子たちがお膳に坐って箸などを取る音)
金吾 ……喜助頭梁は?
お豊 喜助は二三日前から仕事で小諸に行きやした。
金吾 そうかよ。……(無感情にポツリと話し出す)……空襲にうたれてな。いや、俺あやっと、この人ば上野の駅でみつけてな、そいで、こっちへ一諸に逃げて連れて来る気で、切符も手に入ったども、そこへまた、えらあ空襲でな。いや、その前から、なんか空襲の時に、瓦なんか落ちてきて胸をうってな、あばら骨が折れたんじゃねえかと思う。弱っていたが、
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