oタ、と人々が待避する物音)
金吾 金太、駈けるだ! すぐ、あのそれ、それが敦子さまの店だから――(二人が駈け出して、その店の前)
警防団員三 待避だ! おい君、何をボヤボヤしてるんだ、伏せろ。おい君、こら!
男 あーん?(おそろしく、間抜けた声を出した老爺がいる)
警防団員三 伏せろ、馬鹿、危い!

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(言う言葉にかぶせて、急速に迫ってきた低空の艦載機の爆音と、それからうち出す機関銃の掃射音と、それが屋根やコンクリートにはね返る音。それが一瞬の内に、突風のように通りすぎて行く)
[#ここで字下げ終わり]

金吾 金太、そこの内の横にとび込め! おい、あんた、ここに立って居ちゃあぶねえ、それっ!
(その老爺が妙な叫び声をあげるのを引っ抱えて、ころげるように、横路地にとび込む)
警防団員三 まだ来るぞう! まだ来るぞう!
男 (ボウボウ声で)なんだよ、何をするんだ、おい君イ。
金太 だってまだ来るだよ。危ねえよ。
金吾 ここにジッとしてるだ。金太、この人の手をつかまえていろ。

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(再び艦載機の一群が、ガアーッと低空をなめて、機関銃の発射音と共に、この上をとびすぎて行く)

(あと、シーンとして何の物音もしない。遠くで、ダダーン、ダダーン、ダダーンと、無駄に乱射される高射砲のひびき)
[#ここで字下げ終わり]

金吾 金太、何ともなかったかや?
金太 うん、大丈夫だ。
男 ふん、へっへ、うーむ。(唸り声とも笑い声ともつかぬ声を出す)
金吾 あんた、何ともなかったかね? ええ、――おっ!(口の中で声を出して暫く相手を見守っていたが)……ええと、あんた、もしかすると、敏行さんじゃねえんでやすかね? 黒田さんの敏――ああ、やっぱりそうだ!
敏行 あん? 誰だよ?わしは黒田敏行だが、そういう君は――?
金吾 やっぱりそうでやした。柳沢の金吾でやすよ、信州の。
敏行 ……ああ、柳沢金吾君か。そうか、どうも――すると君も、なにかね、春子や敏子に逢いにやって来たのか? そうか。わしあ、さっきここに来たんだが、この内には春子も敏子もだあれも居ないよ。
金吾 そうでやすか、するつうと、春さんや敏子さんの行った先はわからねえんでやすかね?
敏行 なあに、壁にな、なんか置手紙のようなもんがピンで止めてあって、なんでも市川とか保土ヶ谷とか、書いてあったが……金吾君、君はなにか食べるものを持っていないかな? わしあ、この二三日、実になるようなものをなんにも食ってないもんだから、もう腹が減って、腹が減って……
金吾 そうでやすか、ちょっくら待ってくんなして。(リュックサックの紐をほどいて、リュックを開けながら)金太おめえこの中に入ってな、その敏子さんの置手紙というやつ――壁に貼ってあるそうだ、それを探して来てくれろ。
金太 あい!(立って横路地の、その店の横にひらいた戸口をガタガタ開けにかかる)
金吾 そうだ、とにかく中へちょっくら入りやしょう、さあ!(リュックをさげてそれに従う)
敏行 なんか食べるものさ。あったら、とにかく早く、なあ君!(まるで乞食のような言い方で、二人に続いて戸口を入る)
金吾 (入った裏口の、たたみの土間の上りがまちに[#「上りがまちに」は底本では「上りがままちに」]リュックを置いて、その中から竹の皮包の握り飯をとり出す)そいじゃ、これをお食べなして。春さんや敏子さまやそいから横浜の敦子さまにも食べさせべえと思って持ってきたやつで――。
敏行 (ひらかれた竹の皮包の握り飯を一目見るなり、ガタガタふるえる手で、つかみかかるように、その二つばかりをとって、いきなりかぶりつく)あ、こらあ君、白米の握り飯じゃないか! こうあ――あ、ふう―― うむ――(歯を鳴らし、ピチャピチャと音をさせて、むさぼり食う)
金吾 ……(その有様をジッと見ながら)そんな急がねえで、急いで食うとノドに詰まる。
敏行 うむ、うむ――(言ってるそばから、ノドに詰まったようで、眼を白黒させて、グウッグウッと音をさせる)
金太 (内から戻って来て)お父ちゃん、これがそうじゃねえかな?
金吾 よし。(金太の渡す紙切れを受とって)いけねえ、ノドに詰めた。金太、そこらに水はねえか?
金太 うん?
金吾 ああ、そこの棚のヤカンをちょっと取ってみろ。
金太 (ヤカンの音をさせて)ああ、へえってらあ、あい。(と、ヤカンを持って来て金吾に渡す)
金吾 さあ、これを飲みなせえ。(敏行につきつける)
敏行 う、う――(ヤカンから口飲みをして)
ふうーっ!
金吾 (敏行の背中をトントンと叩いてやりながら)あわてねえで。
敏行 どうも、すまん、なんと言ったらいいか、金吾君、ありがとう、ホントに――(少し落ちついてムシャムシャと音をさせて握り飯を食う)

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