スら冷てえもんかよ、豊ちゃんの前だが?
お豊 だけんど、どうしてまた、あんだけしっかりした人が、選りによってそんなお嬢さんなどに思い附いたもんだろうねえ? ほかに良い女が居ないわけじゃ無いだろうに――、
壮六 だからよ、ひとつなんとかしてくれよ、頼まあお豊ちゃん! お前はこうやってツトメこそしているが、内のおかつの学校友だちで、気心はチャンと知れてら。おかつも豊ちゃんなら金吾さんのお嫁さんにゃ打ってつけだと言うしよ。うっちゃって置けば男一匹、気ちげえになっちまわあ。お豊ちゃん、よろしくひとつ頼んます!
お豊 そんな事言いなしたとて、困りますよう! こんな事と言うもんは、そうそう考えた通りになるもんでねえんだから。
壮六 そんな事言わねえで、頼まあ豊ちゃん! 金吾をひとつ、男にしてやってくんなんし! そいで、春子さまなんずの情知らずを見返してやってくれ。こん通りだ!
お豊 あれ、そんなお辞儀をされたりしちゃ、困りやす。お前酔ったな壮六さん?
壮六 酔っちゃいる。だけんど、こいつは酔ったまぎれに言ってるこっちゃねえのだ。うるさく言うようだが――
喜助 (一つ置いた隣りの室から、酔った声)うるせえよっまったく! よそ土地の人間が、海尻へんまで出ばって来て、土地の女をくどかなくともいいだろう?
おしん まあまあ、喜助さん、そんな大きな声出さずとも――(あとはよく聞えぬが、いろいろ言いなだめている)
喜助 大きな声は地声だあ! 誰だと思う――お豊を出せ! お豊を連れて来うっ!
おしん お豊ちゃんは、だから、今お座敷に出ているから――
喜助 お座敷と? へっ、芸者々々と芸者づらあしても、二枚監札のダルマだねえか? 気どるねえ! 第一、農事試験につとめているかなんか知んねえが、馬流へんの小僧っこに、この土地を荒されてたまるけえ!
おしん まあまあ、喜助さんよ、ひとつ飲んで――(と、こちらへ聞えるのをはばかって、しきりとなだめて静まらせる。ガタンと言わせ、ブツクサ言いながら酒を飲むらしい)
壮六 (こちらでは、カッとなったのをおさえて、かえって低い声になって)ふふ、馬流の小僧というのは俺がことか? どうも、さっきから、なん度からめば気がすむんだ?
お豊 まあまあ、かんにんして壮六さん。喜助と言ってね、この町でバクチ打ったりして、うるさい奴だから、がまんしてね。
壮六 うむ。……(酒
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