唐ニぐずる)
中年の女 (わきに居たのが)やれやれ、よかった! あんた、家の人ですかね? なんか、この人は胸を打ったかなんかで、ひどく弱っていますよ。あんた、しっかりしなさいよ、家の人が来てくれましたよ!
金吾 どうもありがとうございました。春さん、金吾だ、しっかりするんだ。
中年の女 この水を飲ましてあげなさいよ。
若い女 (わきに居たのが)赤ちゃんをほどいてやらないと無理だわ、どれどれ。(紐をほどいて、一郎を抱きとってやる。その一郎が「ウーム、ウーム」という声)
金吾 どうもありがとうございやす、どうも――(中年の女が渡してくれた水筒から、春子に水を飲ませながら)春さん、しっかりするんだ、金吾でやすよ。
春子 うーむ、うーむ!(唸る)
駅のアナウンス みなさん、高崎行の列車が間もなく出ますから、切符をお持ちの方は改札口に並んでくださーい、高崎行の列車が出ますから――
中年の女 あれっ、高崎行が出る。そいじゃあんたがた、大事にしてな。
金吾 (水筒を返しながら)へえ、どうもありがとうございやした、助かりやした。(その水筒を受けとって、中年の女はコトコトコトと走って去る)
金吾 (若い女に)どうもすまねえ、そいじゃその児を、おらが――
若い女 そうですか、どうか、あの、大事にね。(一郎を渡す)
金吾 どうもありがとうさん。(若い女が、これも小走りに去る。そこらの人々の騒ぎ、騒ぎの中に金吾が、春子を寝せたタタキのわきのリュックの上に一郎をそっと寝せてから)春さん! 春さん! わかりやすか? 俺だ、金吾だ。
春子 (やっと気がついて、弱い声で)ああ、金吾さん、どうしたの、ここ何処?
金吾 ここは上野の駅だ。
春子 あの、それで一郎は? 一郎はどうしたの?
金吾 坊やはちゃんとここで無事で寝てるだから心配しねえで。どうして春さん、こんな所にいやした? いや俺やな、あんた方を探しに、四、五日前に信州から出て来て、銀座へ行ったが誰もいねえし、そいから市川へ行ったり、保土ヶ谷へ行ったりしても、あんた居ねえしな、いくら探しても見つからねえもんで、とうどう、とにかく一度、信州に帰るべえと思ってね、そいでここに来て並んでたとこだ。
春子 そうお、どうもありがとう金吾さん。私はね、なんですか、さっぱりわからないけど、空襲が恐くって、そいで一郎に怪我をさしてはいけないと思ってね、そいで市
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