ュ一度信州に戻ってから出直そうという気になってね、ガックリして、駅の行列の尻についてタタキの上に坐っていたそうだ。もう夜になっていたそうでね……
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空襲によくあっていた頃の、上野駅の夜の構内。人の歩く気配や、離れたところの雑音などがしているが、すべてのものが疲れはて、沈黙しがちで、遠くでアウンスされる声も沈んで明瞭さを欠く。「ガアガアガア……次の信越線列車は九時三十分に発車の予定でございますが、乗車券をお持ちの方は改札口左手の方に行列……(不明瞭)……乗車券をお買求めの方は切符売場に並んで下さあい……
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少年 (といっても浮浪児らしく、ザラザラした太い声で)おい、おじさん、なんか食物があったらくんなよ、何でもいいからよ、豆でも何でもいいからよ、少しくんなよ、ねおじさん。
金吾 (疲れはてている)でも俺も、ねえから……
少年 そんなこと言わねえで、なんでもいいからよ、ちょっぴりでいいからよ。
金吾 (ポケットから音をさせて、少し豆を出して渡す)大豆の炒ったのが、ホンの少しきやねえ。
少年 ありがとう、おじさん、ありがとう、なむあみだぶつ。(真剣にそう言ってお辞儀をしながら、すでに炒豆を口の中に放りこんでバリバリと噛んでいる)
金吾 ふふふ……(相手がなむあみだぶつと言ったのでおかしくなってちょっと笑いながら)君はなにかい、いつもここらに居るのかい?
少年 そうだよ、家は焼けちゃったし、しょうがねえもん。
金吾 そうかよ――君はこの辺で、そうさなあ、もういい年のおばさんで、ちっちゃな赤ン坊をおぶった、そうだ、少し頭が馬鹿になってるような人だがな、そういう人を見かけなかったかね?
少年 そんな人なら一ぺえ居るぜ。
金吾 え?(ちょっとギョッとするが、すぐにガッカリして)……いや、わしの探しているのは春――春さんと言うて、春子と言うおばさんがな、おぶっている赤ン坊は、一郎と言って――
少年 おじさんのおかみさんかい?
金吾 いや、そうでねえが、ちょっと親戚でな。
少年 わからねえなあ……おじさん切符はあるのか? なけりゃ俺《おい》らが手に入れてやろうか、代を二倍ばっか出してくれると手に入れてきてやるよ。
金吾 そうかよ、実はまだ買ってねえんだ。ええ、小諸から小海線で野辺山という所まで行きたいんだがな、じゃひとつ頼むから、金を―
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