辺山の方へ来て暮さねえかな。したら空襲なんず、ねえのに。
金吾 うむ、俺もこの前にこちらへやって来た時に、そう言ってすすめたし、敏子さまもそうしてくれちって、じょうぶ言ったがな、どうしても銀座のその店に居るつうだ。なんでも敏子さまのご亭主の杉夫さんつうのがな、出征しちゃった後、去年敏子さまに赤ン坊が生れてな、そいで、その赤ン坊と敏子さまを守ってやるのは、出征してる杉夫つう人に対する自分の義務だと、そう言ってな。
金太 ……あ、えらあ火事があったな? こっちの左の方だよ。
金吾 うーむ。こらあ空襲でやられたんじゃねえかな。
警防団員(そこに立っていたのが、カギ棒をガツンと石の上について)おいおい君たち、何処へ行くんだ?
金吾 あのう……銀座の方まで行きやす。
警防団員 けど、まだ警報は解除になっていないんだから危いぜ。
金吾 へえ、どうも……(歩き出す。焼跡の木や煉瓦ガツン、ガツンと叩いている音が近づく。それに警防団員が歩みよって)
警防団員 おいおい爺さん、もういい加減にして諦めたらどうかね、え? こうやって鉄棒だって溶ける位な熱で、ここいら一帯焼えたんだ[#「燃えたんだ」はママ]。いくら金庫に入れといたからちって、物が紙幣だろうが。灰になっているにきまっているよ。
老爺(かみつくように)中のものは紙であろうと何であろうと焼けねえという保証つきの金庫だぜ、クソッ!
警防団員 そりゃお爺さん、ここらが焼けている最中の熱度、おめえさん知らねえからだよ。
老爺 へん、人のことだと思って、君はお安く言うがね、わしあこれでも息子を二人、南方に出征させているんだぜ。君みたいな、ここいらでマゴマゴしている人間はそれでもよかろうが、息子を二人兵隊にとられてる人間だ俺あ。それが財産のありったけを入れてある金庫位、助けてもらうのは当然じゃないか、何を言ってやがるんだい!(ガンガンと焼け材木を叩く)
警防団員 息子が二人出征したからって、何もいばるねえ。今となっちゃ、戦線だろうと、ここだろうと同じこった。南方あたりじゃ戦争なんかしねえで、芋を掘って昼寝してるそうだぜ。
老爺 へへへ、何を言ってやがる。この腰抜けめ!
警防団員 何を、気ちがい爺いめ!(口先だけは、今にも叩き合いの喧嘩にでもなりそうな調子だが、それほどの元気もない。それを聞きすてて、金吾と金太郎は歩く)
金太 ……いやだな
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