ソゃんは入営見送りを兼ねて、二人で広島の方へたって行ったのです。その後、春さんは私のところに引とり、金吾さんは家のことがあるので、いつまでも東京に居るわけにはいかないので、信州へ戻って行きましたけど、妙でございますねえ、その晩の結婚式の間も、それから家へ戻ってささやかな披露の酒もりをしている間も、春さんは殆ど一言も口をきかないで、ただ嬉しそうにニコニコしていましたが、その眼がしょっちゅう金吾さんの方を見ているのです。そして、なにか夢を見るような、ボウーッと上気したような薄あかい顔をして、それはそれは美しい眼をして金吾さんの顔ばかり見ているんですの。春さんとは私長いつきあいでしたけど、あんなに綺麗なあの人の顔を、それまで見たことがありません。その様子が、なんですか、今結婚式を挙げているのが自分の娘の敏子と杉夫じゃなくて、ご自分と金吾さんだと思っているんじゃないかという気がしたんですの。ずうっと後になって春さんからききましたら、やっぱり私の思ったとおりで、あの時結婚式を挙げてるのは自分と金吾さんで、そして翌る朝、杉夫と敏ちゃんを見送りに行きながらも、新婚旅行に出掛けるのが、ご自分と金吾さんのような気でいたんだと言います。なんだか、おかしいような話ですけど、私はそれを聞いても笑う気にはなりませんでしたの。


[#3字下げ]第17[#「17」は縦中横]回[#「第17回」は中見出し]

[#ここから3字下げ]
[#ここから2段組み]
 金吾
 金太
 敏行
 警備員一
    二
 男一
  二
  三
 女一
  二
 警官
 老爺
 老婆
 中年男
 中年女
 通行人
 三十男
 別の男
 男
 警防団員一
     二
     三
[#ここで2段組み終わり]

いきなり空の一角にブーンと遠い爆音があって、それに向って近くまた遠く打ちあげる高射砲の猛烈な爆音。それが暫く続いて、やがて間遠になる。大きな駅の、すぐ外にある地下道の入り口近く、そこを防空壕がわりに、声をひそめてうつ伏せていた、二十人ばかりの乗客達が、それまでシーンと息を殺していたのが、やっとモゾモゾと動き始めた気配。咳をする声など。
[#ここで字下げ終わり]

男一 やれやれ、もう敵機は退散したんですかね?
警備員 もうちょっと待っていて下さい、はっきりしないから。

[#ここから3字下げ]
(遠くで空襲の
前へ 次へ
全155ページ中132ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング