A恐い! 戦争がやってくる!
金吾 ほら、始まった。(傍へ行って片手を握って)春さん、戦争だねえ、汽車でがすよ、汽車だ。
春子 金吾さん、恐い!
お仙 だから、そんなに恐いんだから、東京へ行くのはよしにしたらええのに、なあ、おばさん。
春子 お仙ちゃん、そんなこと言わないで、私を東京へやって。敏子に私言わなければならないことがあるの。恐くなんかない、恐くなんかないから。
お仙 しょうねえなあ。
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ビッューとすべての音を吹きとばして行く風の音。
駅で発車しかけた列車の機関の音。
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金吾 (上りの列車に春子と共にのって、その窓から、下りの列車にのっている金太郎とお仙に向って)そいじゃお仙ちゃん、金太よ、俺あ行ってくるからな、海尻の父ちゃんやかあちゃんにはよろしく言ってな。
金太 あい!
お仙 そいじゃ行っておいでなし。春子おばさん、又すぐこっちい来るだよ!
春子 お仙ちゃん、金太ちゃん、あの――金吾さん、私恐い!
金吾 (その春子の肩をしっかりと抑えて)恐くなんかねえ、春さん、こらあ汽車だ。こら、ただの汽車だから、恐くなんかねえ!
(それらの声をかき消すように機関のエキゾーストと、バァーと鳴りひびく汽笛。
同時に、上りの列車が動きはじめる。それに向って、お仙と金太郎が「行っておいでなんし」、「おばさーん」と言ってるらしい声。)
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進行する列車の、ガァッー、ガタ、ガタ、ガタ、というひびき。それが、おびやかすようにしばらく続く。
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金吾 へえ、わしには何にもわからねえんでやして、春さんがどうしても東京へ行くだちって、仕方がねえんで、俺あ、へえ、ただこうして、お連れしてきただけでやす。へえ、途中も大変でした。飛行機の音だとか、変な音をきくと、戦争がくる、戦争がくるって、ガタガタ震えなさいやしてね、駅からここ迄来る間にしたって、何度もおびえてかけ出す始末でね。へえ、よっぽどくたびれなしたと見えて、敏子さまのお顔を一目見るなり、こうして寝こけちゃったような有様。俺あ、へえ、この人をここへ連れてくるだけの用事でやって来やしたんで、皆さんからそんなこと言われても、俺には、へえ、何と返答していいんだかわからねえんでやすよ。
敏子 (二十一、二の立派な女性になっている。一生懸命な調子で)
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