@姉ちゃんなまだ知らねいかよ。ほれ見ろ、すぐ下が県道だが。
お仙 あれまあ、ほんまだ。
金太 春子おばさまとお父ちゃんはどうしたずら? 呼びに行ってこうか?
敦子 ああ、金吾さんと春さんは、さっきの曲り角を右に行ったんじゃないかしら。ほっときなさいよ。どうせそんな遠くへは行けやしないわ。
金太 だってあれを右に[#「右に」は底本では「石に」]行くと、川の上のえらい崖っぷちに出るぞ。
敦子 なに、金吾さんがついているから大丈夫。ああ、いい風――金太ちゃん、さっきうたっていた歌は、あれは何のうた?
金太 うん? ああ、あれは農民場道の衆たちがうたう歌だ。
敦子 そうお、いい歌ね、元気のいい。おばさんも歌をひとつ教えてあげようか?
金太 うん、教えて。
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激しい谷川の水の音。
その谷に臨んだ崖の上に、金吾と春子が出て来た足音。
[#ここで字下げ終わり]
春子 ああ、くたびれた。こんなに私の足は弱かったのかしら。ちょっと休んでいかない金吾さん。
金吾 春さん、こっちへ坐りなして。そこは危い、下はえらい崖だから。
春子 (ヒョイとふり返って叫声をあげる)あっ! まあえらい谷底になっているのね。落っこちたら粉微塵だわ。
金吾 はっは、だからこっちへ坐りなして。(春子のために草をないでやる)
春子 敦さんや金太ちゃんや、お仙ちゃんは何処へ行ったかしら?
金吾 どうも、道を真っつぐ行ったらしいで。なあに、どうでそう遠くは行かねえんでがしょう。
春子 そうお。ああ、やれやれ何という、いい風が吹きあげてくるのかしら。
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その谷の風に乗って、遙かに敦子と金太郎とお仙のうたう「北大寮歌」の歌声が[#「「北大寮歌」の歌声が」は底本では「北「大寮歌の歌」声が」]流れてくる。歌詞をうたうのは敦子だけ。金太郎とお仙はメロディーをつけている。
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金吾 ああ、敦子さま達がうたっていやす。
春子 いい声! 何の歌だろう?
金吾 札幌の大学の歌でやす。都ぞ、弥生の――(一節をうたってみる)
春子 ああ、思い出したわ。札幌農大の寮歌、そうだ。思い出したわ。そうそう、あれはいつ頃だろう、ねえ金吾さん。私が女学校を卒業した年の夏だったかしら。あのそれ、ここにみんなでやって来て、あなたに案内して貰って、八つ岳の途中まで登った。そう、あの時
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