Oのような気がするけど、あれから三十年の上もたっちゃってるのね。忘れないわ、たしかあなたがここを掻いている時に、春さんや私や、そいから敏行さんや、そうそう、あれはイトコの香川も一緒でしたっけ。八ツ岳へ登るんだと言ってここを通りかかってさ。案内に無理やりあなたを引っぱって行ったことがあったっけ。歌をうたったね、そうそう――札幌農大のうた――(ウロ覚えの歌の節で)
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都ぞ、弥生のくも紫に――
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金吾 (後をつけてうたう)都ぞ弥生の雲紫に――覚えていやす、ははは。
敦子 尽きせぬ香りに濃き紅や――(歌ってる内に涙声になって、うたえなくなってしまう)ばかねえ、若い時というものは。あの人もこの人も、人の心も知らないで――私もこうしておばあちゃんで、金吾さんもおじいさんになった。
金吾 まったくだなあ、ははは。(寂しく笑う)
お仙の声 (林の奥から若々しい)おーい、敦子おばさあん!
春子 (その尻に乗って、子供のようにはしゃいだ声)おーい、敦子さまあ!(二人はこっちへ走って来るらしい)
敦子 (ふり返って)そらそら、春子さんの極楽トンボがとんでくる。あの人だけが若い時分とおんなじよ。
金太 おーい!
お仙 (ハアハアいって近づいてきて)敦子さんのおばさん、こら、こんなダズマ!(犬のジョンがワンワンと駈け廻って吠える)
春子 こら、ジョンや、そんなにじゃれついてはいけませんこれジョン! 敦子さん、これごらんなさい、私のダズマの方がお仙ちゃんよりずっと多いわ、ね、金吾さんほら!
お仙 春子おばさんたら、私が見つけると飛びかかってきて先にとっちまうんだもの、ははは。
敦子 まあそう、キレイだわねえ、何とこの色!
春子 これ敦さんにあげる、そいから半分金吾さんにあげる、金太ちゃんにはこの飴玉あげる。
敦子 あら、春子さん、どこに隠してもっていたの!
春子 ははは、狡いでしょう私。
お仙 金太、もう、ここのかり干しすんだかや?
金太 うん(いいながら、春子から貰った飴玉を口に放りこんで、ガリガリ噛る)
金吾 さあて、これでよしと。
春子 あのね金吾さん、これから私達みんなで山へ登るの、ご一緒に連れて行ってくれない?
金吾 山でやすか。
敦子 あら、まだ覚えているわ。(春子に)でもねえ春さん、山はよしたらどう? もう今日は遅いんだし――
春子
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