ノついて落窪の実行組合で、落窪はずれの山を共同耕作で開墾しようという話になったのを、金吾さんがうんと言わねえので、話がえらくもめやした。というのが、その山の真ン中へんに、黒田さんの別荘があってね、金吾さんにしてみれば、それを取りつぶされるのは、つらい。金吾さんは、ふだんはおとなしいが、一たんこうと思うとなかなかきかねえしね。実行組合では、村の旦那衆がガアガア言うし、川合の壮六さんは言うまでもねえ、郵便局の林さんなぞが間に入ってくれたり、しまいに海尻の大地主さんで轟さん、この人は県会議員にもなった人で、このへんの、まあ、一番えらいしだったが、そういう人の所まで話が行ってね、そりゃゴタゴタしやした。……
轟 (中年の男)いやあ川合君――だったね、あんたの言うことも一応はわかるが、ご存じの通り、満洲国は出来上った。支那事変はああしてグングン奥地にまでひろがってしまう。こういう際に地方に住んでいるわしらとしては、国民の主食を確保するということに全力をあげなきゃならない。そういう際にだね、山林を開拓して、主食を生産しようとする下からの民意をだな、おさえるということはできないな。
壮六 いえ、それが轟さん、何度も言葉を返すようで失礼でございますが、その柳沢金吾という男は、別に食糧の増産に反対してるわけじゃねえんでがして、あすこの林を切り払ってしまうと、あの下の段の落窪の水田の水の調子がすっかり狂ってしまって収穫が半分以下になりやしないかと心配していやすんで。
轟 しかしねえ、今君の言ってる、あの落窪の山林の下の七八町歩の水田というのは、あらかた私の家の田地でな。いや、私にはあの上の山林を切り払うと水の加減がどうなるか、というような細かいことはわからないがね、何れにしろ、それがよくても悪くても、自分の田地なために、これ以上立ち入ったことをいうのは工合が悪い。
壮六 いえ、それは私も存じておりやすが、金吾の言いますのは、あの水田が誰の持物であろうと、上の林を切れば荒れるにきまっとる。それを知っていながら、みすみす僅かなソバ畑なぞを作るために、山を開墾したりは出来ないと、こう言いやすんで。
轟 しかし、この間、落窪の実行組合の人がやって来て、ちょっと言ってたが、その柳沢君というのには、あすこの山林を開拓させたくないというわけが、他にもあるんだそうじゃないか? ――なんでもその自分が
前へ
次へ
全155ページ中110ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング