たのよ」
昇さんはバツが悪くなってぴょこんと一つおじぎをして竹藪の方へ立ち去って行きます
「どうしたの、お父さん?」
「うむ、昇君は親切な良い青年だ」
父はそう言って、水仙の花を睨んでいるのです

     4

その昇さんは私のところを離れると
本堂の裏を墓地の方へ曲ります
するといきなり花婆やのブツブツ声が聞こえます
「そうでございますよ
みんなみんな、おしまいになるのですからね
ナムアミダブツ、ナムアミダブツ
みんなみんな、大々名から
こじきのハジに至るまで
こんりんざい、間ちがいなし!
地面を打つツチに、よしやはずれがありましても
こればっかりは、はずれようはございませんて!
百人が千人、一人のこらず
おしまいは必らず、こうなるのですからね!
生きている時こそ、なんのなにがしと
名前が有ったり金が有ったり慾が有ったりしますけれど
ごらんなさいまし!
こうなるとコケの生えた石ころやら
くさりかけた棒ぐらいですわ
ナムアミダブツ、ナムアミダブツ
ちっとばかり生きていると思って
慾をかいて、汗をかいて
くさい臭いをプンプンさせても
無駄なことではございますまいかの」
花婆やはカナつん
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