てうれしくて私は胸がドキドキして
なんにも言えず昇さんの手を握ったら
それがビッショリ濡れている
私は急に昇さんの顔が見えなくなりました
9
だけど私たち人間の喜びは
なんとはかないものでしょう!
昇さんの言った人生の栄光は
ホンのつかの間の幻よ
人間はそうかんたんには救われない!
それから二三日たった朝
父の朝のおつとめの木魚が鳴り出しても
隣からコエダメの臭いがして来ないので
私はホッとしていたら
やがて臭いが流れて来た
すると木魚の音が乱れはじめて
コエの臭いは鼻がもげそうになって
しまいに本堂の方でガタンと言って
木魚の音がやんだかと思うと
お父さんがドシドシと足音をさせて外に出て行った
カンカンに怒ったお父さんがその足で
垣根の所に行って、いきなり首を突き出して
隣りの小父さんの方を睨みつけたと言うのです
――後で昇さんから聞きました
すると隣りの小父さんも気がついて
その日は鍬こそ振りかぶらないけれど
内の父の睨む目つきがあまりに憎々しいので
小父さんの方でも次第に喰いつきそうな目でにらむ
そのまま二三十分も両方で突っ立っていた末に
昇さんのお母さんがこちらに
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