うだと思います。いつか、そうおっしゃっていたし、此の前の戯曲集のあとがきに、お書きになっていました。僕も、実は、あの通りなんです。今となっちゃ、僕の生きて行くメドは戯曲に全部かかっているんです。
三好 ……(なにも言えず、眼をグルグルさせ、冷汗がにじみ出して来たらしい顔をしている)そうか。……しかし、それにしちゃ、君の書いた物は――。
佐田 (フッと顔を上げて、三好を直視する)……駄目ですか?
三好 ……(ドギマギして、眼のやり場に困っている)いや……駄目の、駄目で無いのと、……そんな事よりもだな……(ヤット立ち直って)この前にも言った。僕は、僕よりも若い人間が戯曲を書いて行きたいと言っても、大概の場合に賛成出来ない。又、現に賛成していない。……この国では戯曲では食って行けない。それよりも、第一、骨が折れ過ぎる仕事だ。なにかむくわれる所が多少でもあればいいが、まるきりそんな事は無い。……俺の顔を見たまい。戯曲なんてえ変なものを永い間書いていると、こんなひどいツラになってしまう。人間の顔じゃ無いだろう、こいつは?……そんな仕事だ。しかし俺は、もう、これで狂犬に噛み付かれたのと同じで、もうこれ、戯曲はよせん。一種の慢性病だからね。……しかし、若い人間が、又ぞろ、こんな酷い仕事に入って行くのを黙って見ちゃ居れん。……つまり、俺は、残念ながら、他人にはすすめる気になれん仕事を自分でやっているわけだ。……しかし、世の中には、時々、馬鹿でもハーチャンでも、叩き殺されても、苦しくても、どんな目に逢ってもだ、或る一つの仕事の中に打込んで行かなきゃ、生きて行けん人間も居るんだ。その仕事が文化的に尊いの尊く無いのと、そんな事は俺あ知らん。ただ、それをしないでは、どうしても、居られない。……こいつが、まあ、俺と戯曲との、関係だ。そうなんだ。そんな人間だよ、俺は。……そして、もし俺と同じような人間が他に居れば、こいつはもう仕方が無い。とめたって仕方が無い。だから一緒に、力になり合ってやって行こう。初めて、そんな気になる。……それ以外の人には、俺は、絶対に、とめる。こんな苦しい仕事は、もう俺だけでたくさんだ。そんな気持ちだ。
佐田 わかっています。
三好 いや、わかっていない。……俺は二十年近く芝居を書いて来ている。勿論、まだ大した物は書けん。下手だ。世間ではチットは何だかだと言ってくれた頃
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